(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親が一人暮らしを続けることに、家族が不安を抱くケースは少なくありません。転倒や急病、火の不始末、認知機能の低下などを考えると、老人ホームへの入居は「安全な選択」に見えます。しかし、住まいを変えることは、本人にとって生活のリズムや人間関係、自分らしさを手放す決断でもあります。

「安心のため」の入居が…81歳女性が感じ始めた違和感

一人暮らしをしていた芳江さん(仮名・81歳)は、昨年、家族の勧めで介護付き有料老人ホームに入居しました。

 

夫を亡くしてからは、築40年ほどの自宅で暮らしていました。年金は月15万円。大きな貯蓄はありませんでしたが、持ち家だったため、節約しながら何とか生活できていました。

 

「自分では、まだ家で暮らせると思っていました」

 

ただ、子どもたちの考えは違いました。

 

数年前から芳江さんは足腰が弱り、買い物の荷物を持って帰るのも負担になっていたのです。さらにある日、台所で鍋を火にかけたまま居間で眠ってしまう出来事もありました。

 

幸い大事には至らなかったものの、長男は強い危機感を抱くようになります。

 

「何かあってからでは遅いよ」

「施設なら食事も見守りもあるし、安心だから」

 

何度も説得され、芳江さんは入居を決めました。

 

月額費用は、家賃や食費、管理費などを合わせて約17万円。年金だけでは足りず、不足分は預貯金から補う形でした。

 

「子どもたちは、“お母さんのためのお金だから使えばいい”と言ってくれました。でも、毎月お金が減っていくのは不安でした」

 

入居当初、芳江さんは「これで家族が安心するなら」と自分に言い聞かせていました。食事は決まった時間に出され、掃除や見守りもあります。夜間もスタッフがいるため、急な体調不良への不安は減りました。

 

一方で、数ヵ月が過ぎるころ、胸の奥に小さな違和感が広がっていきます。

 

朝起きる時間、食事の時間、入浴の曜日。施設では多くのことが決まっています。安全に暮らすためには必要な仕組みだと分かっていても、芳江さんには「自分の生活ではない」ように感じられました。

 

「家にいたころは、好きな時間にお茶を入れて、庭を見て、気が向いたら近所を歩いていました。ここでは、何をするにも誰かの目があるような気がして」

 

総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は月約14.9万円、可処分所得は月約12.4万円で、平均では毎月赤字となっています。高齢期の一人暮らしには経済的な不安が伴いますが、住まいの選択では費用だけでなく、本人の納得感も重要になります。

 

ある日、面会に来た長女に、芳江さんはぽつりと言いました。

 

「もう帰りたい…」

 

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