本格化する海外展開
海外展開はどうなっているのでしょうか?
アンパンマンビジネスは、アニメと絵本と玩具が中心で、しかも対象が乳幼児に限られています。ポケモンと異なりゲームビジネスにはほとんど進出していませんし、「少年ジャンプ」の人気キャラクターと異なり、大部数の漫画もありません。
そのせいもあったのでしょう。アンパンマンの海外展開は国内の事業規模に比べて遅れていました。比較的早くから展開したのが台湾です。2007年に「それいけ!アンパンマン」が「麺包超人」という現地タイトルでケーブルテレビ「MOMO親子台」にて放送開始されました。2015年9月には、バンダイナムコ台湾が海外初のオフィシャルショップ「ANPANMAN Official Shop Taipei(麺包超人館 台北)」を台北市の有名百貨店「新光三越」の台北信義新天地A8館にオープンしています。
現在の台湾でのアンパンマン人気はどのくらいでしょう。2021年5月、ワイズコンサルティンググループが実施した「台湾における5歳以下の乳幼児が好きなキャラクタランキング」では、アンパンマンはディズニーキャラクターに次いで第9位。日本のキャラクターは他にしまじろうが第3位、ドラえもんが第7位、ハローキティが第10位という結果でした。認知はされているが、日本ほど圧倒的な存在ではありません。
アンパンマンの海外展開が本格化したのは2020年代に入ってからです。
2021年4月、FOXエンタテインメントの無料ストリーミングサービス「Tubi」は、英語圏・スペイン語圏(アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ)で映画版「それいけ!アンパンマン」10作品の配信を開始しました。
「あらゆる年齢層のアニメファンが、日本の人気アニメ『アンパンマン』を初めて英語とスペイン語で楽しめるようになった。アンパンマンと彼の愛すべきライバル、ばいきんまんが、Tubi Kids(同サービスの子供向けチャンネル)の人気キャラクターの仲間入りを果たし、視聴者の皆さんにお会いできるのが待ちきれません」
Tubiの最高コンテンツ責任者アダム・ルウィンソンは語っています。
中国市場での「ウルトラマン」成功が追い風に
中国では2023年、大きな動きがありました。同国のアニメーションライセンスの最大手代理店の1つ、上海新創華文化発展有限公司(SCLA)が、「それいけ!アンパンマン」シリーズの独占総代理店となったのです。
2002年創業のSCLAはすでにウルトラマンシリーズ、仮面ライダーシリーズ、エヴァンゲリオン、初音ミク、名探偵コナン、犬夜叉など、日本を代表するキャラクターの代理店を務めるといった実績があります。中でも注目すべきはウルトラマンで、トレーディングカードを例にとると、2021年から2023年の3年間で100億元(約2,000億円)の売り上げを記録するなど、ウルトラマンは中国においてディズニーに比するメジャーなキャラクターになったと評価されています。
こうした実績を持つSCLAが、放送から商品化権まで中国でのアンパンマンの展開を一手に引き受けることになりました。「ウルトラマンの中国進出の大成功が、SCLAがアンパンマンを扱う大きなきっかけとなったのは間違いないでしょう」とエンタメ社会学者の中山淳雄氏は推察します。
2024年5月24日には「それいけ!アンパンマン」シーズン1のエピソード1~3の配信が中国国内のチャンネルYouku、iQIYI、BesTVでスタートしました。さらに夏にかけて、不二家と提携した菓子、幼児向け玩具などライセンス商品の販売を次々と進めました。2024年11月には上海国際児童図書見本市でアンパンマン絵本の中国版4セット25種類の発行が発表されました。
アンパンマンの海外展開は、中国市場での成否がカギといえるでしょう。
柳瀬博一
東京科学大学教授