“まだ受け取っていない遺産”でも申告は必要?税務署は「知った日=遺言の時点」として無申告加算税を請求。『知らなかった』では通じない、戸惑う甥が迎えた“税のタイムリミット”【税理士が解説】

“まだ受け取っていない遺産”でも申告は必要?税務署は「知った日=遺言の時点」として無申告加算税を請求。『知らなかった』では通じない、戸惑う甥が迎えた“税のタイムリミット”【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

伯父の遺言により、法定相続人ではない甥が思いがけず資産を受け取ることに。しかし申告は死亡から14ヵ月後となり、税務署は無申告加算税を課しました。甥は「相続を知ったのは9ヵ月後」と主張する一方、税務署は「遺言書を受け取った時点で知っていた」と反論。期限後申告としてペナルティの対象となるのでしょうか。

納税者、税務署それぞれの主張とは…

本件での争点は次の2つです。

 

【争点】

①「相続の開始があったことを知った日」とは具体的にいつを指すのか

 

②甥が申告できなかった事情が「正当な理由」に当たるか

 

法定相続人以外についての「相続の開始があったことを知った日」とは、被相続人の死亡の事実および自己のために遺贈があった事実を知った日をいうものと解するのが相当とされています。1つ目の争点は甥がいつこれらの事実を知ったのかという点でした。

 

2つ目は、遺贈された財産の範囲や評価が確定していなかったこと、納税資金が手元になかったことなどの事情が、無申告加算税を課さないための「正当な理由」に該当するかどうかという点でした。

 

■納税者の主張

甥は1つ目の論点について、「相続の開始があったことを知った日」は相続があることを実感した日と解するべきであるとし、弁護士から受贈する遺産の金額および同意するか否かの意向確認の書面が届いたタイミングがそれにあたると主張しました。甥がその書面を受け取ったのはAさんが亡くなってから9ヵ月後であったため、そこから10ヵ月以内である14ヵ月目にされた申告は期限内申告であるとしたわけです。

 

2つ目の論点については、遺贈される財産の確定が遅れていたため相続税の計算ができず、正確な申告書を作成できなかったこと、現金など納税に使える資産が手元にないまま期限が近づいてしまい、申告しても納税できる見込みが立たなかったことは無申告加算税を課さないための「正当な理由」に該当するため、税務署の処分は不当だとしました。

 

■税務署の主張

これに対して税務署は、被相続人の死亡後間もなく甥に遺言書の写しが交付されていたことを挙げ、「その時点で相続の開始と自身が財産を取得する立場にあることを十分に知り得た」と反論しました。

 

また、財産の確定が遅れたことや資金の不足といった事情は申告そのものを免れる理由にはならず、無申告加算税を課さないための「正当な理由」には該当しないとしました。

審判所は、税務署を全面的に支持

国税不服審判所は、「相続の開始があったことを知った日」については「受遺者が相続の開始と自身の受遺者としての立場を知ったのは、遺言書の写しを受け取った段階である」と認定。甥の申告は期限後申告にあたるとしました。

 

また、遺贈される財産の確定が遅れたことや、納税資金が準備できていなかったことは申告義務の申告期限までの履行を免れる理由にはならず、無申告加算税の対象となるのが妥当であると結論づけました。

 

結果として、税務署の処分を全面的に支持したわけです。

 

この「相続の開始があったことを知った日」は、通常、相続人であれば被相続人の死亡日に一致しますが、受遺者のような立場では事情によって判断が分かれることがあります。本件では、甥が遺言の内容を把握した時点で、相続開始を知ったとされましたが、個々の事情を勘案する必要がありそうです。

 

また、遺言によって財産を譲り受けることが決まった段階で、「まだ金額が確定していないから」「何も受け取っていないから」といった理由で申告を先延ばしにすることは、結果として無申告加算税などのペナルティにつながります。

 

相続に関する通知や遺言の写しを受け取ったら、その瞬間を“時計の針が動き出すとき”と考え、申告や納税の準備を始めることが必要です。

 

高橋 創

税理士

 

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