納税後に粉飾決算が発覚…遺産評価額の修正には「客観的な証拠」が必要!?過大評価の見直し求める納税者に課された「立証責任」【税理士が解説】

納税後に粉飾決算が発覚…遺産評価額の修正には「客観的な証拠」が必要!?過大評価の見直し求める納税者に課された「立証責任」【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

亡くなった方が法人として事業を行っていた場合、その法人の株式も相続財産に含まれることがあります。もしも納税後に法人の粉飾決算をしていたことが発覚した場合、粉飾をした数字ではなく正しい数字での評価に修正したいところです。今回は、評価額の修正を求める際に納税者が果たすべき立証責任について、国税不服審判所が判断を下した事例を紹介します。

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「更正の請求」の立証責任は納税者に

Aさんは相続によりB社の株式を取得し、その株式を含む相続財産について相続税の申告を行いました。その際、B社株式の評価額は1株につき4,368円とされました。ところが後日、B社が長期間にわたり4億円を超える利益の水増しや資産の架空計上など、粉飾決算を行っていたことが発覚しました。これらを適正に反映して株式を評価すると、1株あたりの評価額は727円となることが判明しました。


この事実を知ったAさんは、当初申告における株式の評価が過大であったとして、税務署に対して相続税の更正の請求を行いました。しかし、税務署は粉飾決算の事実が確認できないとして、この請求を認めませんでした。そこでAさんは、国税不服審判所に申し立てを行うこととなりました。
 

【争点】 

納税者が、客観的な資料に基づいて不正経理の存在を立証できるか

 

納税者が計算ミスなどにより税金を過大に納付していた場合、申告書の提出期限から5年以内であれば税務署に訂正を求めることができます。この制度が「更正の請求」です。ただし、この請求を行うには、計算間違いや事実関係の誤認、後から判明した重大な事情など、請求の根拠となる「客観的な証拠」が必要です。


過去の最高裁判決でも、「納税義務者が一度提出した申告書に記載された所得金額が真実の所得金額と異なることを主張・立証しない限り、その申告内容を正当と認めるのが相当である」とされており、更正の請求には納税者側が立証責任を負うと明示されています。


相続税における株式評価は、原則として会社の決算書や財務諸表に基づき行われます。したがって、それらの資料が粉飾されていた場合、評価額の信頼性が損なわれるのは明らかです。本件では、Aさんがこの粉飾決算の存在を客観的に立証できるかが最大の争点となりました。

 

納税者の主張

Aさんは、B社が粉飾決算を行っていたため、相続税の申告時に用いた決算書には信頼性がなく、それに基づいた株式評価は本来よりも過大であると主張しました。B社は粉飾発覚後も決算や申告の修正を行っていませんでしたが、経理担当者が作成した粉飾金額一覧表や、公認会計士による調査報告書などを根拠に、不正の存在は明らかであると主張しました。

加えて、粉飾決算の存在に気づいたのは相続税の申告後であり、申告時点では会社内部の事情を把握する立場になかったことも補足。Aさん自身には過失のない誤りであることを前提に、正当な評価に基づいて税額を見直すべきだと訴えました。

 

課税庁の主張

税務署は、そもそも相続税の申告に当たってのB社の株式評価は、法人税申告書に添付された財務諸表を基に、法令に則って適正に行われており、何ら問題はなかったと主張しました。

 

また、Aさんが新たに提示した各種資料は事実に基づくものではなく推測および推計によって作成されたものであるとし、会社自身が粉飾決算を認めて訂正申告を行ったわけでも、決算の誤りが公式に認められた事実があるわけでもないことから、評価額の見直しを認められないと反論しました。

審判所の判断

国税不服審判所は、税務署の主張を支持し、更正の請求を認めないという結論を下しました。

 

判断にあたってはまず、申告時点で用いられていた決算書類が正規の書類であったことを確認。そして、更正の請求において提出された粉飾金額一覧表や調査報告書などの資料についても最高裁判決でいう「真実の所得金額に反するものであるとの主張、立証」には足りず、粉飾が行われた事実の立証に十分なものとはいえないとして、Aさんの請求を却下しています。

 

相続税の計算のもととなった決算書が粉飾決算によって作られたものである場合、それを元に計算された相続税額は正しいものとはいえません。しかし、「粉飾があったかもしれない」といった疑念や印象だけでは、更正の請求は認められません。いったん提出をしてしまった申告内容を覆すだけの「証拠」が必要となります。客観的な証拠を提示するというのはなかなかに高いハードルですが、税務における「やり直し」には誤りの立証というもうひとつの壁がある、という点は知っておきたいところです。

 

 

高橋 創

税理士

 

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