高級ホテルなのに暑すぎる…オイルショック下、ホテルオークラを襲った“政府の命令”と社長の絶望「今日ほど困難なことはなかった」→起死回生の一手

高級ホテルなのに暑すぎる…オイルショック下、ホテルオークラを襲った“政府の命令”と社長の絶望「今日ほど困難なことはなかった」→起死回生の一手
(※画像はイメージです/PIXTA)

日本のホテル御三家の一角、ホテルオークラ。栄光の陰で、1975年(昭和50)の夏、時代の変化の波が押し寄せた。法人需要の激減、オイルショック……未曽有の危機。本記事では、ノンフィクションライターの永宮和氏の著書『ホテルオークラに思いを託した男たち』(日本能率協会マネジメントセンター)より、創業以来の常識を覆し、生き残りを賭けた当時のホテルオークラの壮絶な内部改革を明かす。

ゲストが暑がろうが寒がろうが、関係なしの政府による命

オイルショックから政府が音頭をとっての一大運動となった省エネは、ホテル館内空調温度の規制にまでおよんだ。一定温度以下・以上にしないでほしい、という当局からの通達だった。ホテルにとっては費用削減につながるが、それを客の側に強いることには格式のあるホテルほど抵抗がある。ゲストに説明して納得してもらうのはたいへんだった。

 

ホテルオークラも1974年(昭和49)1月、費用削減の徹底を目的として社内に「時局対策委員会」を立ちあげた。大時代的でどこか戦時中を想わせる名称だが、訪日旅行需要の停滞と国内消費急減速という未曽有の危機に立ちむかい、従業員に危機感を持ってもらうにはそれくらいのインパクトが必要だったのだろう。なにしろ従業員たちも世の大量消費ブームに慣れきって、節約意識がすっかりゆるんでいた。

 

委員会には人件費、洗濯費、水道光熱費、消耗品、売掛金回収、破損防止の科目ごとに分科会が設けられ、取締役の大崎磐夫を長とする事務局がとりまとめて徹底的な合理化をめざした。

 

業務委託費の削減で月80万円をカット

人件費については従業員削減や賃金カットには手をつけなかったが、残業ゼロ運動、業務委託のみなおしなどが徹底された。業務委託費の削減では、外部の配膳会(飲食部門サービス要員の派遣、調理補助、食器洗浄管理などをおこなう企業)や館内清掃での外部委託を減らし、そのぶんを従業員がカバーした。外部委託によって日ごろやらなくてもよかった皿洗いや館内清掃を分担してやるということで、従業員たちの負担が増した。

 

その努力の結果は、「ホテルオークラ社内報」(1975年3月発行)に詳しくみることができる。

 

時局対策委員会が立ちあがった1年後、人件費分科会の業務委託費節減作業では月額にして約80万円を節約することができた(1975年1月の前年同月比較)。

 

大卒初任給が7万9千円ほどの時代で、新卒社員給与10人分だから驚くほどの数値ではないが、その額が毎月の純利益となっていくと考えれば、これは大きい。高級ホテルで80万円の純利益を稼ごうとすれば、その十数倍の売上高が必要となる。とくに厨房の洗浄作業では、従業員がカバーすることで外部委託作業時間を38パーセント削減できた。

 

消耗品費の節約で月380万円をカット

同様に、消耗品分科会による、従業員が消費する消耗品費(事務用消耗品+雑貨消耗品)のみなおし作業で全社的な節約を徹底した結果、月額で合計380万円を削減できた。かなりの額である。しかしこれについては、いかにそれまでの節約意識が緩かったかということの裏かえしでもあり、高級ホテルだからという甘えもどこかにあったのではなかったか。

 

洗濯業務の工夫で月80万円の売上アップ

洗濯費分科会では、それまで自社工場で直営していた洗濯業務を外部委託(自社工場への人員派遣)に切り替え、余剰人員をほかの業務分野に振りむけた。

 

また、建ったばかりの別館に「ランドリー・サービスカウンター」を新設した。本来の客室ランドリーサービスとはべつに、ゲストがいつでも持ちこむことができる市中の洗濯店のような存在だが、それに加えて、近隣周辺の住民にも高級ホテルグレードの技術を提供し、新たな収益構造を生みだそうというものだった。さらには、従業員の家族などを対象として料金を1割引とした。この結果、月額売上高約80万円を計上することになった。

 

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本連載は、永宮和氏の著書『ホテルオークラに思いを託した男たち』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋し、日本のホテル御三家の一角・ホテルオークラの経営について詳しくご紹介します。

ホテルオークラに思いを託した男たち

ホテルオークラに思いを託した男たち

永宮 和

日本能率協会マネジメントセンター

【内容紹介】 大倉喜七郎の生涯と、彼が人生最後の記念碑としてつくりあげたホテルオークラの誕生秘話、そして経営を託された野田岩次郎との二人の約束からはじまる知られざる歴史と、脈々と続く熱き経営への思いがいま明かさ…

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