法人需要から個人需要への転換
1975年(昭和50)の夏以前、ホテル業界の営業は宿泊部門にしてもレストラン・宴会部門にしても法人営業が軸となり、個人客への営業はそれを補完する位置づけだった。海外市場でも、海外セールス課や海外現地代理店が日本渡航で実績を持つ現地企業に営業をかけることが営業戦術の柱だった。
ところが円高基調の定着と不況のダブルショックで、柱である法人需要が一気に縮小してしまった。そうなれば一般の個人客に頼らざるをえなくなる。ここがホテル業界にとっての一大転換点となった。
価値観の多様な個人客を狙うとなれば、さまざまな切り口で需要をすくいあげていくマーケティング手法が必要になる。「どうぞホテルをお使いください」というアプローチから「こういう魅力的な企画商品をつくりましたので、いかがでしょうか」というアプローチへの移行だ。さらにターゲットとなる客層がいつも視聴し、目にするようなメディアによる広告やパブリシティの展開が連動していくことになる。
大量消費の時代は終わった
法人需要から個人需要への転換は90年代前半のバブル崩壊からの平成不況期においてもさらに大規模におこなわれ、マーケティング手法もいっそう多角化した。70年代までとそれ以降でのホテル営業手法の決定的なちがいは、この国内むけの個人客マーケティングの進展にある。もっともこれは、なにもホテル業界にかぎっての話ではなく、製造業やサービス業などあらゆる産業で起こったムーブメントだった。
1950年代後半からは生真面目に働く日本人の特質によって日本に高度経済成長がもたらされた。所得が増えて、一家四人一間暮らしという暮らしぶりはもう過去のものとなり、だれもが豊かな暮らしを求めてやがて大量消費の時代が訪れる。忍耐の時代だった戦中戦後の反動もあって、大量に生産し大量に消費することが美徳であった時代。
その熱狂の日本に、ドルショックとオイルショックは冷や水を大量に浴びせかけた。産業界は営業のみなおしと経営引き締めに躍起となる。「大きいことはいいことだ」のCMに代表された大量消費礼賛の時代は終わりを告げ、節約して効率化することが美徳という時代になった。
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