あの頃、万博は夢だった…老舗御三家ホテルオークラが見た「日本の熱狂」と、現代の巨大イベントへの「シビアな視線」

あの頃、万博は夢だった…老舗御三家ホテルオークラが見た「日本の熱狂」と、現代の巨大イベントへの「シビアな視線」
(※画像はイメージです/PIXTA)

かつて、万博は未来への希望を象徴する夢の舞台だった。1970年大阪万博の熱狂は、ホテルオークラをはじめとする日本のホテル業界に限らず、各産業界を大きく後押しした。しかし、半世紀以上を経た現代において、巨大イベントに対する社会の視線は厳しさを増している。本記事では、ノンフィクションライターの永宮和氏の著書『ホテルオークラに思いを託した男たち』(日本能率協会マネジメントセンター)より、国際イベントによる隆盛、2つのショックによる衰退を経験した1970年代のホテルオークラの歴史を紐解きながら、当時の日本経済をみていく。

ホテルオークラ、ワールドクラスの大型ホテルに仲間入り

ホテルオークラは開業から10年が経過していた。東京オリンピック、大阪万博という国際イベント開催を機に訪日旅行への関心、需要も高まった。そのため73年10月には客室数430室、宴会場16室、3つの新たな飲食施設からなる別館を開業させた。

 

ホテルオークラ敷地から道路一本を隔てた西南側の隣接地は、新日本製鉄(現日本製鉄)の施設や個人宅が建ちならぶ場所だった。増築をするならばここしかないといえる場所だが、住宅専用地区だったので手がでなかった。

 

しかしそののち地目変更がなされ、商業施設の建設も可能となった。野田はこの機を逃さず新日鉄の稲山嘉寛(いなやまよしひろ)社長(当時)に談判して土地を譲ってもらい、隣接する住宅地も少しずつ買い集めていった。その合計4600坪がホテルオークラ別館用地となった3)

 

別館開業で、客室数は本館550室と合わせて980室となり、ワールドクラスの大型ホテルの仲間入りを果たした。さらに別館には屋内温水スイミングプール、ジムナジウム、メンバーズサロン、サウナなどからなる日本のホテルで初の会員制ヘルスクラブも開設されて大きな話題となった。

 

そして皮肉にも、まさにそういう華々しい業容拡大のタイミングに合わせるように、円高移行、オイルショックという「2つのショック」が巻き起こったわけである。

 

第一次オイルショックのさいには購買担当者が青ざめた。なにしろ別館ができて980室を擁することとなった巨大ホテルである。トイレットペーパー一つとっても、それが入手できないとなれば致命的だ。庶民が怒涛のように買いだめに走ったことでメーカー在庫は一気に減り、担当者はその確保のために血相を変えて各所を走りまわった。

 

原油高騰による光熱費アップも巨大ホテルにとってはたいへん痛かった。それ以前に、経済悪化と将来不安から消費が冷えこんで宿泊部、レストラン・宴会の各部門ともに需要が細り減収となった。

ダブルショックでホテル業界に一大変化

これを境に、ホテル業界の営業政策で一大変化が起こる。それは個人客獲得のためのマーケティングの導入である。

 

それまでの営業は宿泊部門にしてもレストラン・宴会部門にしても法人営業が軸となり、個人客への営業はそれを補完する位置づけだった。海外市場でも、海外セールス課や海外現地代理店が日本渡航で実績を持つ現地企業に営業をかけることが営業戦術の柱だった。

 

ところが円高基調の定着と不況のダブルショックで、柱である法人需要が一気に縮小してしまった。そうなれば一般の個人客に頼らざるをえなくなる。ここがホテル業界にとっての一大転換点となった。

 

本文注

1) 財務省貿易統計「年別輸出入総額」。

2) 経済産業省・資源エネルギー庁サイト「日本のエネルギー、150年の歴史④」。

3)『私の履歴書』P115

 

 

永宮 和

ノンフィクションライター、ホテル産業ジャーナリスト

 

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本連載は、永宮和氏の著書『ホテルオークラに思いを託した男たち』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋し、日本のホテル御三家の一角・ホテルオークラの経営について詳しくご紹介します。

ホテルオークラに思いを託した男たち

ホテルオークラに思いを託した男たち

永宮 和

日本能率協会マネジメントセンター

【内容紹介】 大倉喜七郎の生涯と、彼が人生最後の記念碑としてつくりあげたホテルオークラの誕生秘話、そして経営を託された野田岩次郎との二人の約束からはじまる知られざる歴史と、脈々と続く熱き経営への思いがいま明かさ…

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