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目指すのは「絶対的収益獲得」
突き詰めるところ、ヘッジファンドは相場環境に関係なく、上昇相場でも下落相場でも、利益を生み出すことを追求した運用主体です。彼らが目指すのは「絶対的収益獲得」であり、リターンを追求することが重要です。そのため投資戦略は多様性を極め、一般的な株式や債券と呼ばれる伝統的資産投資のスタイルから逸脱して投資リターンを得ます。
一方で、一方向の動きと連動する株式や債券はタイミングが難しいものの、初心者でも気軽に投資できます。これらの投資よりリターンを下回るようであれば、ヘッジファンドの存在意義はありません。そのため彼らは複数の金融商品に分散化させて、あらゆる投資手法を用いて積極的な運用を行います。市場との相関が非常に少ない商品と従来の株式や債券と組み合わせることによって、リスク分散効果を図ります。
富裕層のなかには、リスク分散を狙って、自身のポートフォリオにヘッジファンドのポジションを組み込むケースがあります。リーマンショックのような金融危機下で見られる、一方向に下落する相場でも安定的にリターンを積み上げることができるのは、こうした戦略があるからです。実際に、ヘッジファンドは下落局面でも高いリターンを出すことが可能です。
これまでの話を聞いて、どんな局面でもリターンが得られるのであれば、何も考えずに投資をすべきと思う人もいるかもしれません。しかし、ヘッジファンドのリターンを見るうえで、いくつか注意すべき点があります。
「生き残りバイアス」と「遡及バイアス」
ヘッジファンド・インデックスとは、世界の代表的なファンドのデータを組み込んだ代表的な指数です。チャートはキレイな右肩上がりのデータとなっており、毎年安定的なリターンを獲得しています。しかし、データはバイアスというものを鑑みて見る必要があります。バイアスというのは一般的に偏り、または偏見、先入観といった意味があります。
たとえば「生き残りバイアス」と呼ばれるものが、弱肉強食のヘッジファンドの世界には存在します。こうしたバイアスにより、成績が悪かったり、リターンが出ていなかったりするファンドにお金が集まらず、結果的にクローズしてしまうという事象が生まれます。
逆をいえば、リターンが高いファンドの場合、待っていてもお金が集まり長期間運用される一方、成績不良によりクローズしたファンドはインデックスから意図的に取り除かれ、組み入れられないといった事象も生まれます。こうしてリターンの高いファンドのみが採用されてリターンに寄与するため、ヘッジファンド・インデックスのリターンは高く見えてしまいます。ある一部の投資戦略のリターンが長期にわたって魅力的だったとしても、市場全体の色を表しているとは限りません。
また、「遡及バイアス」と呼ばれるものにも目を向ける必要があります。一般的にヘッジファンドの情報は公開されていません。そのため、新たなファンドがインデックスへ組み入れられる場合、組織の運用担当者(ファンドマネージャー)は過去のトラックレコード(運用成績)を恣意的に有利な期間のみ提出することがあります。
たとえば、2008年のリーマンショック時のリターンを切り取り、それ以降のリターンのみを提示するということがあるかもしれません。また、投資家の資金ではない自己取引の運用成績をあたかもファンドのリターンとして表示するケースもあります。ファンドの運用金額は重要なファクターであり、数千万円の運用と数百億円の運用では、同じ戦略でもまったくリターンの出方は異なるのです。
このように、上場または認可・登録された投資信託と異なり、情報が限定的であるが故に強いバイアスがかかり、目に見えないリスクが存在します。ヘッジファンドについては、こうしたリスクを排除し、評価する必要があります。
ヘッジファンド投資の特徴
ヘッジファンドは一般的な投資商品と比較してさらに異なる特徴があります。まず、購入金額が大きいことです。近年の投資信託では最低100円から始められるものもありますが、ヘッジファンドは一般的に、最低投資金額は約100万米ドルと高いハードルがあります。数千万円程度から受け入れるファンドもありますが、それでも資産規模の小さい投資家の場合、一つのエクスポージャー(ポートフォリオのなかで特定のリスクにさらされている資産の割合)が高くなってしまいます。そのためアセットの分散が働かず、そのファンドのリターンが悪ければ、ポートフォリオ全体に影響が及びます。
次に、手数料が発生します。ファンドの買付における購入手数料のほか、リターンの成果にかかわらず運用金額に対して年間1.5~2%の管理手数料が発生します。さらに運用成績が一定水準を上回った場合、リターンに対して20%程度の成功報酬が発生します。その他、ファンドの設立費用や会計費用、バックオフィス業務によるアドミン費用など、ファンドを運営するコストについても注意する必要があります。
また、流動性リスクも抱えています。日々売買されている株式と異なり、ヘッジファンドの購入期間は決まっています。あるファンドを売りたいと思っても、すぐに現金化することはできず、換金性が低い商品です。また一部のファンドはロックアップ(売却禁止期間)を設けており、ある一定期間は必ず保有しなければなりません。ロックアップ前に現金が必要で解約する場合、ペナルティとして数%の手数料が発生するケースもあります。さらに解約した後も着金まで時間を要します。このように資金のタイムラインの不確定要素が大きく、投資する場合には余剰資金が最も適しているといえます。
ヘッジファンドが抱える最も大きなリスクの一つが情報の非対称性についてです。ヘッジファンドの情報というのは一般公開されていないため、彼らが持っている情報と投資家に提供される情報には大きな差があります。また、多くの運用会社はタックスヘイブンと呼ばれるケイマン諸島や英領ヴァージン諸島(BVI)籍のファンドを設立しています。これらの会社は法人登記はされているものの営業実態がないペーパーカンパニーです。そのため、ファンドを運営する主体がライセンスを有する運用会社による要件を満たしているか十分に確認する必要があります。
長谷川 建一
Wells Global Asset Management Limited, CEO最高経営責任者
国際金融ストラテジスト <在香港>
京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

