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ヘッジファンドの投資戦略は2つに大別されるが…
ヘッジファンドの投資戦略は、一般的に2つに大別されます。1つ目は、「ディレクショナル型」です。市場全体の上げ下げを収益源とし、グローバルの市場でポジションを取る戦略です。オルタナティブ投資は株式や債券といった伝統的資産とは相関性が低いからといって、これらに投資しないわけではありません。あくまで、株式や債券といったアセットに投資はするものの、複数の戦略を組み合わせることで相関性をゼロに近づけているというのが特徴です。
2つ目は「非ディレクショナル型」と呼ばれる、相場の上げ下げを収益源としない戦略です。株式市場の変動性(ボラティリティ)が高い低いにかかわらず、コンスタントにリターンを上げ続けることが見込めます。
たとえば、ファンドマネージャーのなかには「先月はマーケットのボラが低かったからリターンが芳しくなかった」と投資家に説明する人がいるかと思います。これは市場が大きく変動することでリターンを獲得する典型的なディレクショナル型を取る戦略を選択しているということです。ですが、「非ディレクショナル型」はマーケットに関係なくコンスタントにトレーディングをするので、こうした言い訳は通用しません。リターンが芳しくなければ、彼らの戦略を疑うしかありません。
実際、多くの「非ディレクショナル型」の戦略は技術の発展や情報提供の効率化が進むにつれ、市場とは関係ない影響によって淘汰され続けています。
「ディレクショナル型」戦略の種類/グローバル・マクロ戦略
各運用戦略について見ていきましょう。ディレクショナル型の代表例としてグローバル・マクロ戦略が挙げられます。ヘッジファンドのなかでも王道の投資手法であり、世界中の国や地域の政治動向、マクロ経済、経済指標などを把握することによって、収益獲得を目指します。世界経済を分析するうえでのファクターはさまざまです。
各国の政策金利をはじめ政策動向、為替、経済指標といったデータをもとに、世界情勢や経済トレンドの予測を立てます。それらをもとに投資対象である株式や債券、通貨、商品を選定します。
このようにマクロ(巨視的)の視点から入って、順にミクロ(微視的)な視点に移してポートフォリオを構築することをトップダウン・アプローチと呼びます。この戦略の1番の強みは、投資対象が幅広い点です。
株式や債券、通貨、商品のみならず、先物市場、オプション、スワップといった多岐にわたるアセットが用いられ、非常に自由度が高いものとなっています。あらゆるアセットクラスのなかから最も魅力的な投資機会を選択することによって、高いリターンを目指すことができるのです。
また、借り入れ(レバレッジ)を行うことによって大きなポジションを取ることができるため、市場の小さな変動によって大きなリターンを得ることも期待できます。もちろん、レバレッジを使用することでリスクは高まるため、いかに適切なリスク管理を実行できるかがファンドマネージャーの腕の見せどころともいえます。
グローバル・マクロ戦略の投資アプローチの仕方について、以下で解説します。
戦略1 「裁量型」
1つ目が「マクロ見通し」に基づき、裁量的にトレードする「裁量型」という一般的な手法です。世界のヘッジファンドのなかには、1人のファンドマネージャーがすべての裁量権を握って投資を決定し、運用しているところがいくつもあります。実際にシンガポールに拠点を置くとあるヘッジファンドは、30年超の経験があるファンドマネージャーによって運用されています。彼らは6名という少数のチームながら、数百億円のAUM(運用資産残高)を運用しています。
また、驚くべきは過去5年間の年間リターンが平均して12~15%であり、一度も年度を通してマイナスのリターンを出していないことです。彼らの投資戦略はいたってシンプルです。一方向の動きを予測しタイミングを見計らって安く買い、高く売るといったトレーディングを繰り返し、リターンを創出します。もちろん、そのタイミングを見計ることが非常に難しいことです。タイムラインのニュース、経済データに加え、過去の経験を踏まえマーケットのトレンドを読み取っていきます。
その他、ヨーロッパに拠点を置く会社でも、一人の裁量によって運用されているファンドが多々あります。こうしたプロのファンドマネージャーに「投資を任せたい」という投資家がたくさんいるというのが事実です。
戦略2 「定量型」
「裁量型」に対して対照的なアプローチを行うのが「定量型」です。数値やデータ、統計的なモデルを使用して投資の決定を行います。人の感情的な意思決定を排除した戦略であり、意思決定は数字による根拠に依拠します。
投資をしたことがある人ならば「損失回避性」と呼ばれる心理的傾向を経験したことがあるかもしれません。人間は何かを失うことを極端に嫌う傾向があるため、得をするより損をしたくないと強く思う心理を指します。一般的に損失がもたらす心理的な影響は、利益のそれの約2倍ともいわれており、投資家たちがなかなか損切りをできない所以でもあります。利益が出たらすぐに利食いしてしまうといったこともしばしば生じるため、機械的に判断を行うのが「定量型」の特徴といえます。
2023年に最もリターンを得た戦略とは…
ここまでグローバル・マクロ戦略のアプローチ方法を紹介してきました。
同戦略のなかで、2023年に最もリターンを得た戦略がドル円のポジションを使った方法です。今になって2023年を振り返ってみると、歴史的円安が当たり前の状況なのですが、かつて誰が160円台/ドルまで円が下落することを予測できたでしょうか。ですが2021年から世界全体が金融緩和を行い、お金がじゃぶじゃぶの状況といったところを想定すれば、このシナリオを描く手がかりになります。
パンデミックによる大規模な金融緩和の影響で米国がインフレに直面するなか、中央銀行は何らかの措置を行う必要があります。そして、いち早く金融引き締めにシフトした米国に対し、日本のみが従来の金融緩和を継続するだろうという予測を立てたとします。このとき、日本と米国の金利差は必然的に拡大し、金利が高いドルが買われ、金利が低い円が売られるといった状況が起こります。上記の仮定から、戦略としてドル買い・円売りポジションのアイディアを打ち立てます。
たとえば、1ドル120円でドル買い・円売りをした場合、初期投資を1億円として5億円のレバレッジを借り入れることによって、6億円のドル買いポジションを形成したとします。次に、大きくドルに対して円安に振れた場合、1ドル150円となったタイミングで、反対売買のドル売り・円買い、つまり6億円の為替レートにてドル円のポジションを解消します。この場合、計算としてはまず6億円の円資産を1ドル120円のドル転することで、0.05億ドルのドル買いを行っています。その後、1ドル150円の円安に振れた段階で0.05億ドルを円へ換えることによって、7.5億円の円買いを行います。これにより、実際の利益は7.5億円から初期投資の1億円、そしてレバレッジで借り入れた5億円を差し引き1.5億円のリターンが得られる戦略方法となります。
こうしたポジションの予測というのは一方向に振れれば高いリターンが得られますが、予想と逆に触れてしまった場合は、大きな損失につながります。たとえ予測を読み違えてもヘッジポジションを取ることによって、リスクを抑えながらリターンを得られるような戦略を同時に立てるのが、ヘッジファンドの投資手段です。こうした大胆な予測は、ファンドマネージャーの腕の見せどころです。
長谷川 建一
Wells Global Asset Management Limited, CEO最高経営責任者
国際金融ストラテジスト <在香港>
京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)