(※写真はイメージです/PIXTA)

時に大きなリターンが期待できるヘッジファンド戦略。しかし、投資である以上リスクはつきものです。リスクについてどのように備え、向き合えばいいのでしょうか。押さえておくべき基本事項を解説します。※本連載は、長谷川建一氏の著書『富裕層のためのオルタナティブ投資の教科書』(ゴールドオンライン新書)より一部を抜粋・編集したものです。

 富裕層にも、富裕層を目指す人にも読んでほしい 
 〈ゴールドオンライン新書〉が登場! 

ヘッジファンド戦略、リターンのみに注目する投資家もいるが…

ヘッジファンド戦略については、リターンのみに注目する投資家もいますが、やはりリスクの観点からも精査しなければいけません。投資の観点からは、標準偏差(測定値のバラツキの度合い)を見ることで、通常ではどの程度のリスクがあるのかをざっくりと予測することができます。もし標準偏差(リスク)が10%程度である場合には、平常時で大体10%前後で上昇・下落することがあるのだと考えておくとよいかと思います。

 

しかしながら、市場である以上予想外のリスクもあります。「標準偏差×2-20%」程度の上昇・下落はするという心づもりをしておきましょう。ある程度の市場の動きに惑わされることなく、精神的にも落ち着いて投資に向き合えます。

 

また、過去の最大下落率等も把握しておくことで、どの程度の下落率が発生することがあるのかを把握する必要があります。また、未上場の資産はリスク管理がさらに重要です。キャッシュ管理ができていないファンドの場合、不測の事態に解約できないということも起こり得ます。したがって、どのような投資家層が投資をしているのかに加えて、解約禁止の条件、キャッシュ管理の方法等といった細部に関しても投資開始前に確認しておくべきです。

 

投資には不測の事態がつきものです。いかにそういったシナリオを想定してリスク管理を行っているのか、過去に起こった問題があれば、どのような対応法を用意しているのかといった箇所は聞かなければいけません。こうした質問に回答できない、もしくは納得した回答が得られない場合には、投資に値しません。

投資における法的リスク

運用の観点以外にも、重要な確認事項があります。それが法的リスクです。投資の世界には、少なからず詐欺案件も存在します。しかしながら、多くの詐欺案件は規制局からの規制を避けるため、ライセンスを取得せずに堂々とマーケティング活動を行っています。投資詐欺案件の疑いを持ったら、どの国の規制局からのライセンスを持つのか確認することを推奨します。こうした情報は、規制局のウェブサイトですぐに調べることができますし、ネットの翻訳機能を使えば、確認するのはそう難しくありません。

 

その他のチェック項目を挙げていきます。通常ファンドの場合には、書類等を作成する弁護士法人、ファンドの監査をする監査法人、取引を執行するプライムブローカー、有価証券の管理を行うカストディアンを確認しまず。加えて、定期的に純資産価値の算出や投資家の本人確認手続き(KYC)を担当するファンドアドミといった第三者機関によって、ファンドマネージャーが恣意的に数字をいじれないかも重要な確認事項です。こうした書類も偽装できてしまう可能性があるので、該当する資料を弁護士、会計士といった特定の有資格者が証明をすることで、偽装防止が徹底されていなければなりません。

 

過去には、アメリカで実際に起きたバーナード・マドフ事件があります。この事件では、金融のプロフェッショナルである機関投資家をはじめ著名人が投資をしており、被害総額は650億ドル(約9.8兆円)に上ったといわれています。このファンドは実際には運用されておらず、出資された資金を解約に応じて配当していたといういわゆるポンジ・スキームでした。この事件から学べることが多くあります。

 

1つは、使っていた監査法人は、マドフ氏のファンドの投資家の一人でもあり、彼と親しい会計士であったことです。また、通常ファンド規模が大きい場合には、4大監査法人と呼ばれるような、会社の規模が大きくインフラが整った監査法人を使います。ですが、この監査法人には2人組しかいなかったことは極めて異例です。それ以外にも、独立したプライムブローカーやカストディアンも使っていなかったこと等、ファンド価格を故意に操作できる土壌を整えていたことがうかがえます。

 

この事件を契機に、ヘッジファンドの世界でも透明化が進みました。どれだけ小さな運用会社であっても、高いコストを払ってしっかりとしたインフラを整えなければ、投資家が集まらない状況となっています。ただし、いまだに独立した第三者機関を入れない、またはライセンスを保有していない運用会社が投資案件の紹介を行っているというケースも少なくありません。どれだけ魅力的なリターンであっても、少しでも腑に落ちない、説明を求めても納得のできない点がある場合には投資をするべきではありません。こうした過去の問題から学び、運用以外の点においても、デューデリジェンスを通じて排除しなければいけません。

世界から見た日本の市場

筆者は現在、世界のトップファンドマネージャーと交流する機会が多くあります。しばしば相談を受けるのは「どうしたら日本の市場にアクセスをすることができるのか」といったものです。前述した運用会社の多くは、世界各国に拠点を持ち、資産残高も数千億円以上を保有するファンドです。こうしたファンドですら、規制の面や投資決定のスピードにおいて、日本市場へのハードルは高いと感じています。欧米や中国からの投資が多い運用会社では、日本だけが未開拓で、これから日本拠点での投資活動を検討している運用会社も少なくありません。

 

しかしながら、言語の問題や日本の機関投資家の高い条件・制限や国内における特有の規制等といった理由から、足踏み状態となっている運用会社もいると聞きます。また、日本国内において、海外運用会社は機関投資家へのマーケティングが主となっています。そのため、いわゆる富裕層の投資家たちにこうした投資案件が紹介される機会は、多くないかと思われます。

 

特に国内のプライベートバンクや証券会社の場合、日本国内の規制に従わないといけませんので、投資ユニバースの一部のみが紹介される現状というのは大きく変わっていません。欧米・中国では、巨額の資金を扱う機関投資家だけではなく、個人やファミリーで資産を持つファミリーオフィス(資産管理会社)の存在感が高まってきています。こうしたトレンドを見ると、日本国内でも富裕層の数が年々増加するなか、オルタナティブ投資の重要性というのは増加の一途をたどるでしょう。

 

最近では、10万米ドル(1,500万円程度)から投資できる案件もあり、個人の投資家にとってもオルタナティブ投資のハードルは低くなってきています。オルタナティブ資産をポートフォリオに組み入れることで、リスク考慮後においても高いリターンが期待できます。

世界のファンドマネージャーたち

効率的市場仮説においては、市場は常に完全で、株価は利用可能なすべての情報を反映しており、一貫したアルファを獲得することは不可能であると説いています。ファンドマネージャーはどれだけ専門的な知識や経験をもってしても、市場平均を上回ることはできないという仮説です。ですが実際に世界を見渡すと、市場平均以上を出すファンドマネージャーは多く存在します。

 

筆者が定期的に交流している世界有数のヘッジファンドマネージャーたちは、その投資戦略や信念に揺るぎない姿勢を持っています。彼らが市場の平均を上回る収益を安定して実現し続ける理由として、この一貫性が挙げられます。彼らの成功は、偶然ではなく緻密な計画と深い洞察に基づいていると感じられます。ここで紹介したファンドは、私たちが見ている一部のファンドに過ぎません。1万を超えるファンドのデータベースのなかから、日々新しい投資案件の発掘をしています。

 

 

長谷川 建一
Wells Global Asset Management Limited, CEO最高経営責任者
国際金融ストラテジスト <在香港>
京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

※本連載は、長谷川建一氏の著書『富裕層のためのオルタナティブ投資の教科書』(ゴールドオンライン新書)より一部を抜粋・編集したものです。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録