前回は、事業用不動産売却の「不動産仲介事業者」との契約形態と留意点について説明しました。今回は、不動産の「売却希望価格」を的確に設定する方法を見ていきます。

売買の「目安となる価格」を調べておく

今回は、実際の売却において、経営者が最低限押さえておきたい基本的な不動産に関する知識を紹介していきます。

 

まず、不動産の最終的な売値は買主との交渉で決まりますが、その前に目安となる価格を調べておくことも大切です。売主として希望する売却価格が目安となる金額より低ければ、容易に買主がつきます。場合によっては仲介を依頼した不動産会社が買い取り、すぐに転売して利益を上げようとすることもあります。転売により不動産会社が得る利益は、目安となる価格を知っていれば売主が取得できたものです。

 

それとは逆に、目安より大幅に高い売却希望価格を設定した場合には、右から左に売るというわけにはいきません。買主探しや買主との交渉、売却不動産の加工など、工夫を重ねることが必要となります。「高値でも買いたい」という買主に出会うまでには、多くの不動産会社や事業者、あるいは資産を持つ個人と面談を重ねるのが一般的です。売却が完了するまでにはかなり長い時間がかかるので、すぐにまとまった資金が欲しい場合には不向きと言えます。

 

適切な利益を確保し売主の事情に合う売却を実現するために、目安となる価格を知っておくことは非常に大切です。

「土地価格」を形成する複数の要素とは?

土地の価格はその土地が持つさまざまな要素によって形成されます。以下のような複数の要素を検証した上で、複合的な判断によって価格が決められます。

 

◦エリア

土地価格を決める際にもっとも重視される要素の一つです。一般的には都市部に近いエリアや都心へのアクセス性の良いエリアはニーズが高いため価格が高くなります。都心へのアクセス性は単に距離だけでなく、「最寄り駅に急行や特急などが停車する」といった特性によっても高まります。また、アクセス性では最寄り駅までの距離も重要です。駅から徒歩10分までの土地は徒歩圏内とされ価格が高めですが、これを超えると一気にアクセス性の評価が低くなります。

 

さらに、エリアの持つ雰囲気やイメージも価格形成に大きく影響する要素です。特に「都心へのアクセス性が高いエリアでありながら、静かで緑が多い」「治安が良く安心して暮らせる」などのイメージがあるエリアは高価値とされます。

 

◦用途地域

都市計画法に基づいて定められており、「住宅用」「工業用」「商業用」などの区分があります。区分ごとに建てられる建物の大きさや建ぺい率、容積率などが異なります。

 

たとえば有名な高級住宅地はほとんどが「第一種低層住居専用地域」に指定されています。厳しい高さ制限がある他、店舗や施設など、住宅以外の建物は大半が規制の対象になっており、静かに暮らしたいというニーズに合う用途地域です。一方、工業地域や商業地域はそれぞれ工場や倉庫、商業施設向けとされる用途地域です。

 

◦周辺の施設

周辺に大型ショッピングセンターなどの施設があり、生活の利便性が高い土地は高く評価されます。逆に、ゴミ処理場や工場など、悪臭や騒音が心配される土地は評価が低くなりがちです。

 

◦前面道路

広い道路に面している土地は車の出し入れがしやすいため高く評価されます。用途によっては幹線道路に面しているとアクセス性も高いため高価格がつきますが、住宅用地として評価する場合には、騒音や排気ガスの影響がマイナス評価になることもあります。

 

【続く】

本連載は、2016年8月16日刊行の書籍『経営者のための事業用不動産「超高値」売却術』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

経営者のための 事業用不動産「超高値」売却術

経営者のための 事業用不動産「超高値」売却術

大澤 義幸

幻冬舎メディアコンサルティング

事業が悪化し経営苦に陥った中小企業経営者の切り札「不動産売却」。できるだけ高値で売却して多額の負債を返済したいと考えながらも、実際は買手の〝言い値″で手放せざるを得ないケースが多い。しかし、売れないと思っていた…

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