前回は、売り物件の「情報コントロール」の重要性について説明しました。今回は、「不動産仲介事業者」との契約形態と留意点について見ていきます。

不動産仲介事業者に媒介を委託する際の3つの契約

不動産を売却する際に頼りとするのは不動産仲介事業者です。一口に不動産仲介事業者と言っても、財閥系の大手から地域の物件だけを扱う小規模の会社まで、規模や得意とする分野が異なるさまざまな事業者があります。不動産を売却しようとする人は買主探しから売却に必要な手続きまで、ほとんど一切の作業を不動産仲介事業者に任せることが少なくありません。

 

媒介を委託する契約を結んだ上で不動産仲介事業者を利用するのですが、委託契約には以下のような三つの種類があります。

 

●専属専任媒介契約

売主にとってもっとも縛りの厳しい媒介契約です。売主は他の不動産会社と契約することができないだけでなく、自分で見つけてきた買主と契約することもできません。

 

●専任媒介契約

他の不動産仲介会社とは契約できませんが、売主自身が見つけてきた買主に売却することについては制約がありません。

 

●一般媒介契約

売主にとってもっとも自由度の高い媒介契約です。複数の不動産仲介会社と自由に契約を結ぶことが可能です。自分で見つけてきた買主との契約も制限されません。

 

三つの契約形態でもっとも異なるのは、売主の自由度です。「専属専任媒介契約→専任媒介契約→一般媒介契約」の順で自由度は大きくなります。不動産仲介会社にとっては売主の自由度が小さいほど、他の不動産仲介会社や売主自身との競争がなくなるため有利と言えます。

 

いずれも3か月以内という契約期間の制限はあるものの、その間はライバルがいないため他社が見つけてきた買主候補と比較されることがありません。自社の利益が大きくなるよう、状況に合わせて策を練ることが可能となります。そのため、不動産仲介会社はさまざまな理由をつけて売主と専属専任媒介契約を結ぼうと考えます。

不動産仲介会社は「高値での売却」を求めていない!?

売買が成立すれば、不動産仲介会社には売却価格の3%に加え6万円(※簡易式)が手数料として支払われます。高値で売却するほど手数料もアップするため、不動産仲介会社は売主と同じく「なるべく高値での売却」を望んでいるものと考えられています。

 

また、売主の側には「自分が委託している事業者だから当然、味方してくれるはず」という思いもあり、同じ方向を向いていると信じることが多いようです。

 

ところが、実際には不動産仲介会社は必ずしも「高値での売却」を求めているわけではありません。それ以外にもより大きな利益を得る方法があるためです。代表的な手法としては、「相場より低い価格で自社の関連会社に買わせ、すぐに転売して差益を得る」というものがあります。

 

たとえば、自社の関連会社に相場より2割安く購入させ、相場価格で転売すればそれだけで利益を得ることができます。仲介手数料はやや小さくなりますが、それを補ってあまりある利益を上げられるため、この手法をとる不動産仲介会社は少なくありません。

 

買主が関連会社でなくても、転売する際には再度仲介として利用してもらえるよう約束しているケースも見られます。複数回の仲介を繰り返すことで、仲介会社の利益は2倍、3倍に膨らみます。この場合も、2番目、3番目の買主が現れるよう、当初の売却価格は低めに抑えられてしまいます。

本連載は、2016年8月16日刊行の書籍『経営者のための事業用不動産「超高値」売却術』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

経営者のための 事業用不動産「超高値」売却術

経営者のための 事業用不動産「超高値」売却術

大澤 義幸

幻冬舎メディアコンサルティング

事業が悪化し経営苦に陥った中小企業経営者の切り札「不動産売却」。できるだけ高値で売却して多額の負債を返済したいと考えながらも、実際は買手の〝言い値″で手放せざるを得ないケースが多い。しかし、売れないと思っていた…

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