父親が亡くなって残された妻と長女、長男が相続手続きに入った際に発覚したのは、専業主婦の母が父親以上に金融資産があったということでした。顧問税理士は、亡くなった父親の相続税の申告をする際、母親の預金も「名義預金」として父親の財産に加算しなければならないと主張しますが、それでは2,445万円も相続税が増えてしまうことに……本記事では、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が事例をまじえて、できる対策について詳しく解説します。
名義預金とみなされる具体的なケース7選
◇名義預金とみなされる具体的なケース
1.資金の出所が名義人ではない場合
- 預金口座の名義は母親や子供になっているものの、その資金が父親や別の人のものである場合。
- 例:父親が稼いだお金を母親や子供名義の口座に入れていた。
- 判断基準:預金の元となった収入源(給与、事業収益、退職金など)が名義人以外の人物のものである場合。
2.名義人が口座を管理していない場合
- 口座の通帳やキャッシュカードが、名義人以外の人物によって管理・利用されている場合。
- 例:父親が母親名義の口座を完全に管理しており、母親はその存在や内容を詳しく知らない。
- 判断基準:口座の運用や管理の実態が名義人ではなく他者によるものと判断される場合。
3.名義人が預金の使途を決めていない場合
預金を誰がどのように使用するかを実際に決定しているのが名義人ではない場合。
- 例:父親が資金の使途をすべて決定し、母親や子供がそのお金を自由に使えない場合。
- 判断基準:預金の使用権限が名義人にあるとは言えない場合。
4.贈与の形式が整っていない場合
名義人に対して実質的な贈与が行われておらず、贈与契約書の作成や贈与税の申告も行われていない場合。
- 例:父親が母親や子供の口座に資金を移しただけで、贈与の意思や実態が確認されない。
- 判断基準:単に資金を移しただけでは、贈与とみなされず名義預金とされる可能性が高い。
5.名義人に収入源がない場合
名義人自身に収入や資産がなく、その預金の出所を説明できない場合。
- 例:無職の子供名義の口座に多額の預金があるが、その資金の出所が不明な場合。
- 判断基準:名義人がその預金を正当化できる収入や資産を持っていない場合。
6.定期的な入金が名義人以外から行われている場合
名義人ではない人が、継続的または一括で預金口座に資金を振り込んでいる場合。
- 例:父親の収入から母親名義の口座に毎月一定額が振り込まれている。
- 判断基準:名義人がその資金の管理・利用を行っていないと認定される場合。
7.税務署が実態を調査して判断する場合
税務調査において、名義人が口座の管理・使用実態や預金の出所を説明できない場合。
- 例:相続発生後、税務署が預金の状況を調査し、父親の財産とみなす根拠を見つけた場合。
- 判断基準:税務署が実態に基づいて、名義人以外の人物の財産と判断する場合。
名義預金を防ぐための注意点
- 預金の管理や入出金は名義人自身が行う。
- 資金の出所を明確にし、贈与の場合は契約書を作成し適切に申告する。
- 生活費や扶養費といった日常的な支援金であれば、その範囲内であることを明確にする。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載相続のプロが解説!人生100年時代「生前対策」のアドバイス事例