父親が亡くなって残された妻と長女、長男が相続手続きに入った際に発覚したのは、専業主婦の母が父親以上に金融資産があったということでした。顧問税理士は、亡くなった父親の相続税の申告をする際、母親の預金も「名義預金」として父親の財産に加算しなければならないと主張しますが、それでは2,445万円も相続税が増えてしまうことに……本記事では、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が事例をまじえて、できる対策について詳しく解説します。
相続に強い税理士の見解
母親が専業主婦だったとしても、母親固有の財産は持っていてもいいことですし、会社経営をしていた父親よりも堅実に財産を残してきた可能性もあるかもしれません。
母親に聞いたところ、働いていた時期の預金をずっと貯めてきて、投資していた株が増えたり、保険の満期返戻金が入ったりして少しずつ増えてきたものだといいます。父親のお金をまとめて振り替えたりということもないようです。
この状況からは、母親の預金は母親独自の財産として考えればよく、父親の相続財産として申告をする必要がないというのが私たちのアドバイスです。
念のため、業務提携先で相続税申告に慣れている税理士にも確認しましたが、同じ見解で、父親の財産とは切り離して考えればよく、それで問題ないという判断でした。
税理士の判断で変わる
相続税は、証明となる書類を添付して、自ら「申告」しますので、税務署に対して説明できればよいということです。父親の財産のうち、預金は残高証明書を添付するうえ、事前に通帳などで入出金も確認するので、母親の口座に移された記録がないことも証明になります。
けれども、顧問税理士のように「専業主婦にはまとまった預金はない」という固定観念で判断して、相続財産として加算して申告しなければならないという結論を導き出されると相続税が増える結果となり、相続人の負担が増えることになります。
これは、会社の顧問税理士という立場で、税務調査に入られないように、多めに相続税を払って税務署の心証をよくしようということなのでしょう。税務署は多めに納税されたとしても「多すぎるので相続税を減額します」ということにはなりません。相続人よりも、税務署側を向いて仕事をしているように感じます。
遥さんには、会社の顧問税理士だとしても、相続税の申告は別と考えて、他の税理士を選択するようにアドバイスし、母親と弟で相談してもらうようにしました。
名義預金には要注意
名義預金とみなされる場合とは、預金口座の名義人と実際の預金の所有者が異なる場合を指します。このような状況が生じると、名義預金として相続税の課税対象になる可能性があります。以下に、名義預金と判断される主なケースを説明しておきましょう。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載相続のプロが解説!人生100年時代「生前対策」のアドバイス事例