同性カップルの子育て「現実」と「未来」
昨年の6月、なーちゃんが誕生。3,000グラムを超える元気な女の子でした。「3ヵ月くらいまでは毎日手探りで、ちょっとしたことでも心配ばかりして大変だった」と振り返るふたりですが、最近は少し子育てにも余裕が出てきました。
貴文「毎週、3人で親子教室に通っています。まわりはお母さんと赤ちゃんの2人というケースが多いかな。僕たちの場合、子育ての負担は半々くらい。父親、母親という役割に捉われることがないから、“平等な子育て”が実現できていると思います」
なーちゃんはこの4月から保育園に入園。以前は人見知りなところもありましたが、最近は新しい環境に慣れるのも早くなったといいます。それ以上に驚いたのが保育園の反応。
隼人「初め、保育園に『親は男同士なんですけど……』と伝えたら『分かりました~』と、拍子抜けするくらいあっさりとした返事で。結婚式の会場を決めるときも、そう。会場のスタッフさんに『男同士なんですが……』と聞くと『なんの問題もないですよ』と温かく迎えてくれました。もちろん、心の中でどのように思っているかは分からないけど、私たちが思ってる以上に社会は寛容なのかもしれませんね」
しかし、ときに男親同士の子育てに、大きな壁を感じざるを得ないことがあります。まずは何といっても“法的な結びつき”。
貴文「娘と血のつながりがあるのは隼人。何もしなければ、法的には僕と娘は“赤の他人”です。その状態で隼人に何かあった場合、僕と娘は一緒に暮らせなくなる可能性がありました」
不測の事態が起きぬよう、なーちゃんの誕生前に、貴文さんと隼人さんは養子縁組をしました。養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があり、普通養子縁組では養親は養子より年上でなければならず、自然と貴文さんが親、隼人さんが子、となったそうです。そして、なーちゃんが誕生。“ふたりの子”でありながら、戸籍上、貴文さんはなーちゃんの祖父になります。なんとも複雑な関係ではありますが、法的にも3人は“家族”となったわけです。
また未成年後見人の指定のために公正証書遺言も作成しました。法律的なアドバイスをもらうなかで、「子供においては女性親のほうが権利が強いことを痛感し、ゲイカップルが子供をもつことの難しさを感じた」と隼人さん。現行法のなかで、今できることを精一杯する……これが、貴文さんと隼人さんのスタイル。それでも、なーちゃんを育てていくなかで、不安は付きまといます。
貴文「やっぱり僕たちは男なので、娘の成長に伴う体や心の変化に、どのように対応していけばいいのか……いまから色々と考えますね。学校など、まわりと協力を仰ぎながら、乗り越えていかなければならないことだと思っています」
さらに子育ての様子をネットで発信していることもあり、普段から応援のメッセージのほか、誹謗中傷の声も多数も届くといいます。
――子供が可哀そう
――学校でいじめられる
――親がゲイだったら自分は嫌だ
さまざまな声は、いずれ、なーちゃんの耳にも届くかもしれません。そんな未来に対して、ふたりは伝えたいことがあります。
隼人「これから先、娘は周りから色々と言われて『なんでうちにはママがいないの?』『なんでパパが2人なの』『なんでうちは他と違うの?』と困惑すると思います。だから『うちはパパが2人なんだよ。世の中にはママが2人の家族もあるし、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんがいる家族もいる。色々な家族がいていいんだよ』と伝え続けたいですね」
貴文「僕ら、子育てをしていくなかで、これから先も色々と困難なことが起きると思うんです。そこで自分たちだけで解決しようとせず、どんどん周囲(地域)を巻き込んでいけたらと思っています。日本は、さまざまな問題や責任を家庭に押し付けてしまい、その結果、虐待とか、悲しい事件が起きてしまっている……そういう家族を作り出しているのは、結局、社会なのだと感じています。だから自分たちが率先して、周囲を巻き込んで、どんな困難なことでもクリアしていきたいと思っています」