父の死後に残された「何もわからない母」
美和さん(仮名・52歳)は地方都市に暮らす主婦。夫(55歳)と、高校3年の長女、大学2年の長男の4人家族です。
教育費のピークを迎え、家計は常にぎりぎり。住宅ローンも残っており、美和さん自身もパートで働きながら、なんとか生活を支えてきました。
「自分たちの老後資金なんて、とても考えられなかったですね。とにかく子どもが最優先で」
そう語る美和さんに、ある日、突然の知らせが届きます。実父(享年78歳)が急逝したのです。
葬儀の場で、美和さんは現実に直面しました。母(75歳)は、「何をどうすればいいか、わからない」というばかり。喪主としての段取り、親戚への連絡、手続きなど、すべてを美和さんが担うことになりました。
「認知症ではないんですが……母はずっと専業主婦で、ほとんど働いたことがない。手続きなども父任せで社会に疎くて。自分では何もできない人なんです」
「娘だもの、面倒見てくれるでしょ?」
さらに現実を突きつけられたのは、父が残した貯蓄の額。通帳に残っていたのは500万円ほどで、美和さんの予想よりもかなり少ない金額でした。
理由を母に尋ねても、「さあ、わからないのよ」と首をかしげるばかり。家計の管理はすべて父任せで、どれくらいの収入があり、何にいくら使っていたのか、母自身は把握していなかったのです。
通帳を確認すると、父が生前勤めていたアルバイトの入金履歴が見つかりました。その額、月に10万円ほど。父は月15万円、母は月6万円弱の年金を受け取っており、父のアルバイト代を合わせると、世帯収入は月31万円前後あったことがわかりました。
しかし父が亡くなった今、母の収入は自分の国民年金と遺族年金だけ。合計12万円程度にとどまります。
「お母さん、これじゃとても足りないと思うよ」
固定資産税や生活費、医療費などを考えれば、明らかに赤字です。それでも母は、どこか現実味のない表情でこう言いました。
「何とかなるんじゃない? 美和ちゃん。娘だもの……面倒見てくれるでしょ?」

