ゲイカップル…出会いからプロポーズまで
待ち合わせ場所にベビーカーを押して現れた、菅野貴文さん、隼人さん。ベビーカーにはキョトンとした顔の9ヵ月(取材時)の女の子、なーちゃんの姿がありました。事情を知らない人は「あれっ、お母さんは?」と思うかもしれませんが、ふたりはいわゆる“夫夫(ふうふ)”、ゲイ同士の子育てカップルです。
出会いはさかのぼること8年ほど前。当時、ふたりとも看護師として働いていましたが、お互いが「同じ仕事をしているゲイの友人がほしい!」と、出会い系アプリに登録したといいます。
隼人「周囲にカミングアウトしていなかったので、たとえば友人と恋バナなんかしても、好きな女性がいるふりをしていました。そのような状況が虚しくて。また看護師は少々特殊な仕事なので、同じゲイで看護師の友だちがいたら色々と話せるのに……そう思ってアプリに登録をしたんです」
貴文「僕の場合、友人にはカミングアウトしていました。でも同じように恋バナになっても、友人には恋愛の先に結婚があって子供がいて……そういう道が当たり前のようにあるのに自分にはない……だからか、どこか一歩踏み込んだことは話せないという思いがありました。仕事で悩むことも多く、色々と分かり合える同じゲイの看護師の友人がいたら……自分も彼と同じように考えていたんです」
隼人「当時、『カミングアウトしているゲイの人は、生活も性格も派手』という先入観があったので、彼からカミングアウトしていると聞いたときは『こんな普通っぽい雰囲気の人が⁉』と衝撃を受けました。私は小学校高学年から中学生ぐらいのときには、恋愛対象が男であると自覚していましたが、親が結構古い考えをもっていて『同性愛は病気だから』などと聞かされて育ちました。だから『男の人を好きだという感情は隠さないといけないことなんだ』『女性と恋愛ができない自分は、このまま一生独りで生きていくんだ』と思っていました」
貴文「僕も物心がついたときには恋愛対象は男の人だと自覚していました。しかしカミングアウトはなかなかできるものではありません。ところが大学で同じゼミのなかにレズビアンの子がいて、周囲にもカミングアウトしていたんです。彼女と知り合ったことがきっかけとなり、友人には自分がゲイであることを伝えるようになりました」
周囲に伝える/伝えていないという違いはありますが、ゲイであり、看護師であるという共通項で知り合ったふたり。食事をしたり、遊びに行ったりという友人関係が続きましたが、ほどなくして隼人さんから貴文さんに告白をして交際に発展。付き合い始めた半年後には同棲をスタートさせました。そして今度は貴文さんから隼人さんにプロポーズをしたといいます。
そもそも隼人さんは早い段階から「結婚」を意識していたとか。
隼人「まだ同棲を始める前のことなんですが、彼が『うちに遊びに来る?』と言うのでおじゃましたら、部屋がすごく散らかっていてビックリ! 当時、彼は仕事のことで精神的にすごく落ちているときで。だから部屋は散らかり放題だったみたいです。『こんな状態の家によく人を呼んだな』って(笑)。さらに『夕飯、何食べた?』と聞いたら『うまい棒』というから『これはヤバい状態だな』と(笑)。そこで、まずは掃除をすることにしたんです」
貴文「夜の8時くらいだったよね」
隼人「そう。でも自分には潔癖なところがあって、たとえばお風呂の排水溝に溜まった髪の毛は本当に無理で触ることもできない。でも彼の髪の毛はなんてことなく触ることができたんです。『この人のためなら、こんな大変なこともできるんだ』と、自分でも驚きでした。それで『この人と一緒ならどんな辛いことでも乗り越えていける』『この人となら一生添い遂げることができる』と意識するようになったんです」
貴文「僕は大学を出てから看護師を目指したので、彼と出会ったときは、まだ看護師1年目。看護師としてのキャリアの長い隼人は尊敬の対象でした。そして僕が立て続けにミスをしてメンタル的に落ちているときに支えてくれたことも、すごく大きなことでした」
プロポーズをしたのは隼人さんの誕生日。貴文さんがレストランを予約し、食事を終えた後に運んできてもらったバースデーケーキのプレートに「結婚しよう」とメッセージを添えて。そんなサプライズでした。