夫婦の暮らしを変えた毎日の“孫対応”
「最初は、うれしかったんです。孫の声がする家って、やっぱり明るいですから」
そう話すのは、田中さん夫妻(仮名・ともに74歳)です。夫婦の年金収入は月約20万円。退職金やこれまでの蓄えを合わせて、貯金は約1,600万円ありました。持ち家で住宅ローンも完済しており、ぜいたくをしなければ十分に暮らしていける。そんな見通しを持っていたといいます。
転機は、長女の彩子さん(仮名・43歳)が、2人の子どもを連れて頻繁に実家へ来るようになったことでした。きっかけは、勤務先の人手不足によるシフト増と、下の子の保育園のお迎え時間でした。
「最初は“週に2回だけお願い”という話だったんです。でも、だんだん回数が増えていって、気づけば平日はほぼ毎日になっていました」
学校から帰ってくる小学生の孫、保育園帰りの幼い孫。田中さん夫妻は、宿題を見て、夕食を食べさせ、ときには風呂に入れ、母親が仕事を終えて迎えに来るまで面倒を見るようになりました。
夫妻は「孫はかわいいよ。でも、毎日となると話は別です」と苦笑します。
「公園に連れていけば走り回るし、家の中でも目が離せない。74歳になると、かわいいだけでは済まないんです」
最初のころは、夕食の材料代やおやつ代も「孫のためだから」と気にしなかったといいます。ですが、食費、光熱費、日用品費は少しずつ膨らんでいきました。総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の可処分所得は月22万1,544円、消費支出は月26万3,979円で、平均するとすでに月約4万円の赤字です。もともと高齢夫婦の家計は、貯蓄の取り崩しを前提に成り立ちやすい構造にあります。
「うちは年金が20万円ですから、平均より少ないんです。それなのに、孫の食費や習い事の送迎で車を出したり、急に“上履きがいる”“明日、遠足のお菓子が必要”なんて言われたりして、思った以上に出ていくんです」
とくに負担が大きかったのは、現金の支出よりも、生活全体が“子育て中心”に組み替わっていったことでした。
「本当は、夫婦で旅行に行こうとか、温泉にでも行こうとか話していたんです。でも、平日はほとんど予定を空けておかないといけない。病院の予約も入れづらくなりました」
ある日、田中さんは通帳を見て、言葉を失ったといいます。大きな出費があったわけではないのに、残高が思った以上のペースで減っていたのです。
「教育費を出しているわけでもないし、生活費を丸ごと渡しているわけでもない。でも、毎日の積み重ねって、こんなに大きいんだと思いました」
その夜、夫妻は初めて本音をぶつけ合いました。
「このまま続けたら、私たちの老後が先に苦しくなるんじゃない?」
「でも彩子も困っているんだろうし、急に断れないだろ」
喜びと負担が同時に膨らんでいく毎日。田中さんは、「孫が嫌なわけじゃない。むしろ大切です。でも、“大切だから全部引き受ける”を続けるには、私たちも年を取りすぎていました」と振り返ります。
