「万全のはずだった」暦年贈与…見落としていた“6年分の約束”
「書面も残していたし、銀行振込にもしていた。これで大丈夫だと思っていたんです」
そう振り返るのは、節子さん(仮名・70代)です。夫に先立たれたあと、相続税対策も兼ねて、大学進学を控えた孫に少しずつ資産を移したいと考えるようになりました。知人から「年110万円までなら贈与税はかからない」と聞き、毎年その範囲内で贈与する方法を選んだといいます。
贈与は、孫が18歳になった年から始まりました。毎年1回、110万円を孫名義の口座に振り込み、そのつど簡単な贈与契約書も作成。署名押印もそろえ、「証拠はきちんと残している」という意識がありました。
「現金で渡すよりも、通帳に残る方が安心だと思ったんです。契約書まで作っておけば、あとで何か言われることはないだろうと」
実際、最初の数年は何の問題もないように見えました。孫は大学生になり、節子さんも「これで少しは将来の助けになる」と胸をなで下ろしていたそうです。
ところが、相続を見据えた税務相談の過程で、状況が一変します。税理士に過去の資料を見せたところ、1枚のメモを指摘されたのです。そこには、贈与を始めた年に家族内で共有していた予定表のようなものがあり、「今後6年間、毎年110万円ずつ贈与する」と記されていました。
「それはただの予定メモみたいなものでした。きちんとした契約書ではないし、あくまで家族の確認用のつもりだったんです」
しかし、税理士の見方は違いました。
「各年の独立した贈与ではなく、最初の年に“6年分まとめて渡す約束”が成立していたと見られる可能性があります」
節子さんは耳を疑ったといいます。
「だって、実際に渡したのは毎年110万円ずつです。まとめて660万円を一度に渡したわけじゃないんですから」
