「孫のためだから」と始まった援助…静かに削られる老後資金
「最初は、そこまで深刻に考えていなかったんです。孫の顔が見られるなら、それでいいと思っていました」
そう振り返るのは、田村さん夫妻(仮名・60代後半)です。夫婦の年金収入は合計で月27万円ほど。現役時代に蓄えた預貯金は約4,100万円あり、持ち家で住宅ローンもありません。
「ぜいたくをしなければ、このまま穏やかに暮らしていけると思っていました。旅行も、年に一度くらいは行けるかなって話していたんです」
転機は、長男夫婦に第2子が生まれた頃でした。共働きのため、保育園の送迎や急な発熱時の対応を頼まれることが増えていったのです。
「最初は、たまに預かるくらいでした。上の子の保育園のお迎えを代わったり、熱が出た日に来てもらえないかと言われたり。その程度なら、祖父母として当たり前かなと思っていたんです」
しかし、援助は少しずつ広がっていきました。平日の夕食、休日の昼食、おむつ代やミルク代の立て替え、習い事の月謝の一部、さらには家族旅行の費用の補助まで、「孫のため」「今だけだから」と負担する場面が重なっていったのです。
「息子たちも余裕がないのは分かっていました。住宅ローンもあるし、物価も上がっている。だから“少し助けるくらいなら”と」
ただ、その“少し”は、家計簿にすると想像以上の金額になっていました。食材や外食の回数が増え、光熱費も上がり、車での送迎が増えればガソリン代もかかります。子ども用の着替えやおもちゃも、気づけば家に常備されるようになっていました。
総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の可処分所得は月22万1,544円で、消費支出は月26万3,979円と、平均で月約4.2万円の赤字です。つまり、高齢夫婦の家計はもともと貯蓄の取り崩しを前提に成り立ちやすく、そこに家族への援助が恒常的に上乗せされれば、資産の減少は一気に早まります。
「うちは年金が27万円ありますから、数字だけ見れば“余裕がある方”なのかもしれません。でも、出ていくお金も確実に増えていました。年間で見ると、孫関係だけでかなりの額になっていたと思います」
ある日、妻の洋子さん(仮名)が通帳の残高推移を見て、思わずため息をついたといいます。
「こんなに減ってるの?」
大きな出費をした記憶はない。リフォームをしたわけでも、投資で失敗したわけでもない。それなのに、預金は確実に目減りしていました。
「教育費を丸ごと出しているわけでもないのに、日々の小さな持ち出しって、こんなに大きいんだと初めて実感しました」
その夜、夫妻は久しぶりに老後資金の話をしました。
「このまま援助を続けたら、私たちの介護費用や医療費まで削ることになるんじゃない?」
「でも、孫に困る思いをさせたくないし、息子たちだって大変なんだろう」
「分かってる。でも、こっちにも限界があるよね」
楽しいはずの時間の裏で、家計の前提は静かに崩れ始めていました。
