「ステーブルコイン」の発行が米国債市場に与える影響とは
先週の記事「【米国債需給②】米国政府が狙う資本課税」では、特定の国の法人や個人が米国投資から得る配当金や利息に対し、米国政府が課税する可能性について考えました。今週も引き続き、米国債市場について考えます。
米大手銀行がステーブルコインの共同発行を検討
2025年5月下旬に米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米国の大手銀行がステーブルコインの共同発行を検討していると報じました。
米国では、これまではステーブルコインを規制する連邦法が存在しませんでしたが、現在上院ではそれに当たるGENIUS法(the Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)が審議されています。
後述しますが、米政府としては、この整備をきっかけとして民間の金融機関にステーブルコインの発行を促し、(現在、ファンディングが問題になりつつある)米国債への需要を生みたい意図のようです。
また、ステーブルコインの発行は、かつて『シカゴ・プラン』と呼ばれた『ナロー・バンキング』への一部移行を包含しており、それはモラルハザードや銀行取り付け、そして公的部門による銀行救済などを(理想的には)排除するという意味で、(1)トランプ氏の小さな政府の「理想」に近く、なおかつ、(2)バンキングの世界に大きな変革を迫るものです。銀行は、過去100年あまりとはまったく別の世界で存在していく必要があるといえるでしょう。
ステーブルコインとは
ステーブルコインは、その価値が法定通貨(たとえばドル)と1対1に対応する暗号資産(仮想通貨)です。すなわち、(インフレを除けば)価値が安定している暗号資産(仮想通貨)です。
既存の主要なステーブルコインとして、テザー(USDT)やUSDコイン(USDC)が挙げられます。ほかにもPayPalがステーブルコインを発行しています。確認しますと、これらの発行主体は銀行ではありません。また、クレジットカード大手のVISAはステーブルコインにリンクするカードを発行しており、VISAカードが使える店舗でステーブルコインを使うことができるそうです。
ステーブルコインは、24時間365日送金が可能で、銀行やクレジットカード、SWIFTなどに比べ、(その使い手・送り手・受け手にとって)安価な送金・決済手段として利用することができます。たとえば、レストランの食事代金やEコマースの購入代金、海外旅行の民泊代金などの決済や送金で用いることを想像してください。
ちなみに、日本や中国では電子マネーの利用が行き渡っており、また中国ではそもそも暗号資産(仮想通貨)の保有が禁止されていますが、これらの国々では(後述するほかの用途を除けば)ステーブルコインの拡大余地は比較的小さいかもしれません。ただし、日中ともに、(民間ではなく)中央銀行が発行するCBDC(中央銀行デジタル通貨)の発行を検討しているとされます。
他方の米国ではクレジットカードやデビットカードが広く普及しているものの、一部の決済で小切手や現金が選好されるなど、ステーブルコインに相対的な拡大余地があるでしょう。
とはいえ、現時点におけるステーブルコインの決済・送金用途は一部にとどまります。