(※写真はイメージです/PIXTA)

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米国債入札を続けるFRB

(前略)もし「資本の逃避」として知られる現象が排除されるなら、賢明な国内政策を取ることは容易だろう。所有と経営責任の分離は、株式会社化の結果として、所有が多数の個人に分散され、彼らが興味の向く株式を今日買い、明日売り、しかも彼らがそうして金銭的に保有するものに対する知識と責任を欠くとき、国内では事態は重大となる。さらに同じ原理が国際的に適用されるならば、非常時には耐えがたいものとなる。(中略)それゆえ、私は、国際的な経済上の絡みを最大化する人々よりも、むしろ最小化する人々に共感する。アイデアや知識、科学、ホスピタリティ、旅行、これらは本質的に国際的であるべきものである。他方で、合理的かつ利便性があるときは常に、財は国内で生産させよう。ファイナンスは国内で完結させよう。(中略)国内での自給自足は、コストがかかるものだが、われわれがたまたまそれを望むならば、それはぜいたく品になりつつあるのかもしれない(ジョン・メイナード・ケインズ『国家の自給』)。

 

5月の最終週は、米連邦準備制度理事会(FRB)が量的引き締め政策(QT)によって米国債の保有額を減らしているにもかかわらず、財務省による米国債の入札では買い入れ金額をむしろ増やしているという現象について確認しました。

 

本記事では引き続き、米国債市場について考えます。

「1つの大きく美しい法案」に資本課税案

2025年5月22日に米国の連邦下院議会で可決され、これから連邦上院議会で審議される(トランプ減税の延長、歳出削減、債務上限引き上げなどをまとめた)「1つの大きく美しい法案」には、内国歳入法(Internal Revenue Code;米国連邦税に関する法律)に新たな条項(Section 899)が付される案が含まれています。

 

簡単に言えば、これは米国による新たな資本課税です。

 

話を戻すと、具体的には、財務省が、(1)米国を含む外国の企業や個人に治外法権的な税を課している国/米国の企業や個人に差別的な税を課している国を特定し、(2)これらの特定された国の政府や法人、個人などが米国での事業や米国への投資から得る利益や配当金、利息などに(二国間の租税条約で定められている税率に上乗せする形で、追加の)所得税を源泉徴収するものです。

 

治外法権的/差別的な課税の例として、欧州地域を中心にみられる(米国のテクノロジー企業などが提供する)デジタルサービスに対する課税(デジタルサービス税、DST)が挙げられています。

 

当初の税率は5%で、是正されない場合には税率が毎年5%引き上げられ、最大20%課されることが企図されています。

 

この資本課税は、米国と他国との間の租税条約に反する可能性があります。米国は、二国間の(一般的な)租税条約で禁じられている差別的な税を他国が米国の主体に課していることをこの新たな課税の根拠とするはずですが、他方で、外国政府からは租税条約に反するとして報復される可能性もあるでしょう。

 

「また報復合戦か」と思われるかもしれませんが、資本課税によって国際的な資本移動を制限することは投機的な動きを抑制し、金融システムを安定化させるため、メリットは少なくないと筆者は考えます。

 

ちなみに、米国債の利息に対する課税については、米経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長による『マールアラーゴ合意』に関する論文のなかでも(合意を促すための手段として)「手数料」名目での米国債の利子課税が議論されています。「手数料」としているのは租税条約違反を避けるためと記述されています。当コラムの3月27日付の記事「マールアラーゴ合意とはなにか④ ドルの下落にマールアラーゴ合意は必要か」のQ15で触れています。

 

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