ここにハンコを…生き別れの亡き父の遺産がいつの間にか見知らぬ女性の手に。〈47歳女性〉の前に突然現れた招かれざる訪問者の「まさかの正体」とは?【相続の専門家は見た!】

ここにハンコを…生き別れの亡き父の遺産がいつの間にか見知らぬ女性の手に。〈47歳女性〉の前に突然現れた招かれざる訪問者の「まさかの正体」とは?【相続の専門家は見た!】
(※写真はイメージです/PIXTA)

香さんの元にある日訪れた不動産会社と見知らぬ女性。話を聞くと「香さんの父親名義の建物を解体したいのでハンコをください」とのこと。父親は死亡、土地と建物の借用関係をめぐって香さんの知らぬところで他人に遺産を取り壊されそうになっていたのです。本記事では、使用貸借を行って所有されていた建物が、所有者の死亡によって相続人に相続されなかったケースについて、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。

建物を使用していないため、権利主張が難しい

使用貸借という現状から、法的には原則、権利主張をすることは難しい、という結論になりました。

 

弁護士の説明では、

 

「裁判例上、建物所有を目的とした土地の使用貸借の場合、『建物の使用が終わらないあいだに借主が死亡しても、特段の事情のない限り敷地の使用貸借が当然に終了するものではない。』と判断しているものもあります(大阪高裁昭和55年1月30日判決)。

 

なお、この点については、具体的な事情により裁判例においても判断が分かれているところです。したがって、たとえば、対象となっている建物を相続人である香さんが使用しているような場合には、使用貸借が終了していないとして権利主張をすることができる可能性はあるかと思います。

 

しかし、もし利用されていないという場合には、『建物の使用が終わった』と評価され、借主死亡により、使用貸借契約が終了したと判断される可能性が相当程度高いものと思われます。」

 

とのことで、やはり権利主張は難しいと判断しました。そこで、香さんには山田さんからいわゆるハンコ代程度の謝礼を払ってもらい、解体を承諾するほうがいいとアドバイスした次第です。

親族以外の他人が全財産の遺贈を受ける違和感

今回、山田さんは親族ではなく、まったくの他人ながら、公正証書遺言により財産の遺贈を受けています。これは親族である香さんでなくとも、違和感をもつところです。

 

生前に交流がないとしても、親族に通知もなく手続きをしてしまうところにも意図的なものを感じます。

 

生前に財産の形成や介護などの貢献をしていないとしても、親族であり、香さんの母は養育費ももらわずにいたのですから、せめて相続のときくらい、まったくの他人に遺産を渡すより「いくらか親族にわたしてあげよう」という配慮がないものか、と残念に思うところです。

 

残るは亡くなった父親の妹の相続人-父親の母親の権利=遺留分について、侵害請求することを検討してもいいと思えますので、これを機に、香さんにとっては祖母である人物と父親の代襲相続人の立場で、交流を持つようアドバイスをしました。また、そうすることで将来祖母の相続のとき慌てなくてもすむので、香さんにとってはいいきっかけになるはずです。

 

仮に今回、遺留分侵害額請求をして祖母の財産が確保できるのであれば、祖母の相続財産として受け取ることができるため、今回、もらえなかった財産のかわりになると言えます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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