香さんの元にある日訪れた不動産会社と見知らぬ女性。話を聞くと「香さんの父親名義の建物を解体したいのでハンコをください」とのこと。父親は死亡、土地と建物の借用関係をめぐって香さんの知らぬところで他人に遺産を取り壊されそうになっていたのです。本記事では、使用貸借を行って所有されていた建物が、所有者の死亡によって相続人に相続されなかったケースについて、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。
突然の訪問者がハンコの押印を求めてくる
香さん(40代女性)が相談に来られました。話を聞くと、ある日香さんのもとに全く面識のない不動産会社の人と女性・山田さんが訪ねてきたと言います。香さんが戸惑いながらも事情を聞いてみたところ、2人は次のようなことを説明しました。
「山田さんが遺贈を受けた土地に、香さんの父親名義の建物がある。相続税を払うために土地を売却したいのだが、建物があると土地が売れないため建物を解体したい。しかし香さんの父親は亡くなっていて、建物の相続人は一人娘の香さんだけになるため、解体してもいいという書類にハンコをもらいたい。解体費はこちらで負担する」
困った香さんはどうすればいいかと相談に来られたのでした。
両親は離婚していて父親とは会う機会がなかった
香さんの両親は香さんが生まれて間もなく離婚。母親は香さんを連れて父親の家から出ているため、香さんには父親と暮らした記憶がありません。
母親の話ではそのあと養育費をもらわず、一切の交流がなかったため、父親がどんな生活をしてきたのかまったく見当がつかないといいます。
当然、母親も父親や父親の親族とは交流を絶っていたため、父親が亡くなったことを知らされておらず、今回、不動産会社の人と山田さんの話からようやく知ったのでした。
相続人ではない人が、公正証書遺言で遺贈を受けた
山田さんが遺贈を受けた土地は香さんの父親の妹の名義になっていたのですが、本年、父親の妹が亡くなったため、公正証書遺言で山田さんが遺贈を受けたといいます。
香さんの父親は母親と離婚後、再婚していなかったようで配偶者はおらず、相続人は香さんひとりでした。父親の妹も独身で、配偶者、子どもがいません。親がすでに亡くなっている場合は、相続人はきょうだいとなるため、香さんが亡くなった父親の代襲相続人となるところでした。
けれども、まだ母親は健在ですので、亡くなった父親の妹の相続人はその母親一人となります。
そのような相続を行う予定だったはずが、公正証書遺言により亡くなった妹の財産は、すべて山田さんが遺贈を受けることになったのです。
当社が香さんの依頼をもとに、山田さんから資料を提供してもらい確認したところ、確かにその土地はすでに名義変更登記が終わっていて、父親の妹から山田さん名義に変わっていました。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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