インフレへの備えを
次期大統領が誰であっても、ほぼ確実といえることは、米国のインフレです。
すでに、米国の連邦政府債務(GDP比)は第2次世界大戦時並みです。また、利払い費は軍事費を上回っており、欧州と中東の2方面での大規模な戦争を支援するなか、米国の一国覇権にも赤信号が灯っています。
増大する債務を、米国民が増税や歳出削減によって負担することはほとんど不可能とみられます。
なぜならば、米国内は、伝統的な価値観から最小限の政府介入を望み、ウクライナ支援ではなく国内のハリケーン被害者への支援を望むような保守の低所得有権者が多く存在する一方、リベラルを標榜しつつも自らの所得税(法人税も)を減らすことを議会議員に働きかけ、(大企業は安価な労働者としての不法移民に頼りつつ)移民が自分の裏庭に来ることは拒む(“not in my backyard”の)ような富裕層の有権者が少数ながらも政治に対する大きな力を持っているためです。
前者は税負担の能力がなく、後者は税負担の意思がありません。
ただし、自国通貨建て債務がデフォルトすることはありません。歴史が示すとおり、連邦政府債務の増大は中央銀行(FRB)によって引き受けられ(→また、それまでには、日本もその他の先進国も、米国の肩代わりとしての米国債の引き受けや軍事支出の増加などで、米国と同様の状況に陥り)、政治力のない一般有権者に大きなインフレが負担されることになるでしょう。
ちなみに、日本の政治や権力の構造は米国とまったく変わらないといってよいでしょう。米国の一般有権者同様に、政治力のない、われわれ日本人は、投資家としてはインフレに備え、家計としては米国のような状況になる(→なにかと生きづらくなり、経済的な負担も増える)ことに対策をとる必要があるでしょう。
来年も米国は好景気…?
今年これまでの米株市場は1999年以降でベスト・イヤーと言われ、まさに「バラ色」です。
2025年の米国景気も、インフレを伴いつつ、強く推移する可能性があるでしょう。他方で、米国景気の力強さは、FRBによる利下げを遅らせる可能性も考えられます。そうしたなか、金融市場は、多くの不確実性に囲まれています。
米国にかぎっても、財政拡張やインフレ懸念、銀行・ドルの資金繰り、オフィス不動産への貸出債権、大手企業の業績拡大の持続性、労働市場、消費者信用といった先行きが不透明な要素が挙げられます。米国外で言えば、国際政治情勢(欧州・中東・極東)、中国経済、インド株式市場などの不確実性が挙げられます。
もちろん、これらは(株価を押し下げるような)リスク要因としてだけでなく、中央銀行や政府による「救済」を呼び込んだり、収束や好転に向かったりする可能性も十分に考えられることを認識しておく必要があるでしょう。
特に、現在の金融市場は、「株価を大きく調整させるような不都合な事象は中央銀行によるマネー・プリントで呑み込まれ、何事もなかったかのように済まされる」官製市場です(→その帰結は、インフレでしょう)。