最後は不動産取引…どちらが着地を望んでいるのかで決まる
地主の要求から1年が経過し、借地人から謝罪の申し入れがあったという。
両者間で協議を重ね、地主が借地権を買い戻すことで合意した。話し合いになれば、落としどころはどちらがこの取引を望んでいるのかで決まる。買取価格は4,000万円。更地の査定価格1億4,300万円の28%で着地した。
地主は近隣の土地で同様の問題を抱えていて、是非とも裁判所での決着を望んだのだが、借地人が下りた形だ。
100年前に権利金の授受がなく、低額な地代で貸した土地。2世代下って地主に対する感謝を忘れ、商売がうまくいかずに地代負担が重くなっての行動だったのだろう。
「もらってもいない借地権料」など認められない
借地人が借地権を勝手に売却しようとした原因は、借地権割合で算出した相続税を支払ったことが原因だったと聞く。
地主は毅然とした態度で交渉にあたるべきだ。相続税を支払ったのは借地人と関与税理士の問題であって、借地人と地主との関係には影響を及ぼさない。
権利金の授受がなく「相当の地代」を支払っていない借地権利金には、キャピタル・ゲインによる地主の取り分が含まれている。借地権割合が60%ならその60%が借地権者の取り分。つまり更地価格の36%(60%×60%)を「相当な借地権割合」とすると、双方が納得できるのではないか。
それでも合意できなければ、最後は裁判所に判断を委ねるしかない。裁判所は借地権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡または転貸を必要とする事情、年間地代や更新料、その他一切の事情を考慮して、当事者間の利益の公平を図って承諾に代わる許可を与える。
もし裁判所が決めた額が不服なら、地主が裁判所の決定額で借地権を買い取ることもできる(借地権優先譲受申立)。
借地権割合による財産評価がひとり歩きしているように思えてならない。借地権設定当時に権利金の授受がなく、固定資産税などの3倍以下で貸す低廉地代の借地は相当数残っている。当初貸付から2世代下って地主との関係も薄れ、借地上の建物も朽廃してくるころだ。事例のような借地権譲渡も増加するものと思われる。
古くから貸している地主からすれば、もらってもいない借地権料をもらったとする借地権割合など認めることはできない。このようなケースなら「裁判所に決めてもらいましょう」と主張することを勧める。
元国税査察官・税理士 上田二郎
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