「国立がん研究センター」の若尾文彦医師

日本人が一生のうちに2人に1人が診断されると言われる「がん」。1981年から日本人の死因第1位を占めていますが、早期発見と早期治療によって「治せる病気」になっています。さらに、がん患者の約3割は「働く世代」(15~67歳)でかかっており、治療をしながら働き続ける人も少なくありません。一方で、まだまだ「かかったら死ぬ病気」「怖い病気」というイメージもあることも事実。残念ながら命を落とす人もいますが、「がん情報サービス」などを提供する「国立がん研究センター」(東京都中央区)の若尾文彦医師は「がんを宣告されたからと言って慌てて仕事を辞めないでほしい」と訴えます。実は、この記事を書いている記者(41歳)もがんサバイバーで、治療をしながら仕事をしています。人生100年時代と言われる令和の時代、それぞれの事情を抱えた私たちが少しでも自分らしく働いていくためには? 「がんと仕事」をテーマに取材して見えてきた、令和の働き方についてお届けします。(THE GOLD ONLINE編集部・堀池沙知子)

母と同じ左胸に…乳がんを宣告されたときに印象的だった主治医の言葉

2021年2月、38歳のときに私は乳がんのステージIIと診断されました。診断のきっかけは会社の健康診断。コロナ禍で会社指定の健診センターではなく、自宅の近所にあった総合病院のがん検診をたまたま受けたところ、乳がんが見つかりました。主治医によると胸のしこりは初期とは言えない状態の約3センチ。数年間かけてがんが育っていたようです。

 

乳がんの告知は一人で受けましたが、主治医が精密検査の結果、左胸に乳がんが見つかったことと乳がんの5年相対生存率などをエビデンスを元に淡々と伝えてくれたおかげで一瞬動揺はしたものの、落ち着いて説明を聞くことができました。

 

今でも印象深く残っているのが主治医の「仕事は辞めないほうがいい。幸いあなたの場合は予後のいいがんというデータもある。手術まではやることがたくさんあるし、気を張り詰めているから大丈夫だけれど、手術も無事終わって退院した途端にやることがなくなって気が抜けちゃう患者さんが結構いる。そういう意味でも仕事は辞めないほうがいいと思う」という言葉です。

 

実は私の母も43歳の時に同じ左胸に乳がんが見つかり、1ヶ月間の入院生活を送り、退院後は抗がん剤治療が待っていました。仕事を辞めた母がしんどい思いをしながら遠くの病院まで抗がん剤治療に通うのを間近で見ていた私は、自分も同じ病気にかかった今、これまでの生活と同じ生活を送れるとは思えませんでした。

 

乳がん宣告から手術までは約1ヶ月半。その間にも精密検査の予定が続々と入り、入院の準備も。「意外に忙しいな」と思ったのを覚えています。おかげで余計なことを考えずに準備を進められました。入院は一週間ほどで有給休暇の範囲内で何とかなりそうだったので、総務と相談の上、特に休職はしないことになりました。

 

当時、私はメーカーが運営するオウンドメディアの編集者として働いていたのですが、社員の中にもこれまでにがんや他の病気にかかった人が何人かいたので、総務の担当者も「慣れている」というか私の気持ちや体の状態に寄り添いながら対応してくれ、会社に説明する際に特に困ったことはありませんでした。世の中もコロナ禍で社員の多くが在宅勤務が中心だったというのもあり、退院後も在宅で働き続けることができました。

 

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