(※写真はイメージです/PIXTA)

親の離婚や老後の不安をきっかけに、成人した子どもが再び親との距離を見直す場面は珍しくありません。厚生労働省『人口動態統計』によると、2024年の離婚件数は18万5,904組。あわせて内閣府『令和7年版 高齢社会白書』では、65歳以上の一人暮らしは増加傾向にあると示されており、老後の住まいや支え方は多くの家庭で現実的な課題になっています。

「親を助ける」…中年期に押し寄せる家族の再編

「離婚したから、迎えに来て」

 

その電話を受けた瞬間、奈々さん(仮名・39歳)は、しばらく言葉が出なかったといいます。

 

相手は母の和美さん(仮名・64歳)でした。奈々さんは都内で一人暮らしを続ける会社員です。仕事は忙しく、住宅ローンこそないものの、家賃や生活費、将来への不安を抱えながら、自分の暮らしを何とか維持していました。

 

母とは不仲ではありません。ただ、いつでも何でも相談し合うような関係でもなかったといいます。父と母は長年地方で暮らしてきましたが、夫婦仲が良いとは聞いていませんでした。それでも、離婚してすぐ娘を頼ってくるとは思っていなかったそうです。

 

「最初は、冗談かと思いました。でも母は本気で、“もうそっちに行くしかない”という口調でした」

 

詳しく聞くと、父から突然離婚を切り出され、話し合いの末に別居が決まったといいます。財産分与の話もまだ整理しきれておらず、当面住む場所も定まっていない。母にとって、頼れる相手として真っ先に浮かんだのが奈々さんだったのです。

 

「頼れるのはあなただけなの」

 

その一言が、奈々さんには重くのしかかりました。

 

母を放っておけない気持ちはありました。とはいえ同居は別の話です。部屋は1LDKで、もともと誰かと暮らす前提ではありません。勤務は不規則で在宅の日もあるものの、母の生活を支えながら仕事を続ける余裕があるのか、自信はまったくありませんでした。

 

「助けたい気持ちはあります。でも相談もなく“迎えに来て”というのは…」

 

数日後、奈々さんは母に会うため実家へ向かいました。家の中は想像以上に荒れていました。夫婦で使っていた家具や家電の置き方が変わり、食卓には離婚協議書の下書きと見られる紙が無造作に置かれていました。和美さんは疲れ切った様子で、「もうここにいたくない」と繰り返したといいます。

 

ただ一方で、奈々さんは話を聞くうちに戸惑いも覚えました。母は今後の住まいを探したのか、手持ち資金はいくらあるのか、公的な支援や賃貸の選択肢を調べたのか――そうした現実的な整理が、ほとんど進んでいなかったのです。

 

「とにかく娘の家に行けば何とかなる、という考えに見えました」

 

総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』では、65歳以上の単身無職世帯の可処分所得は月11万8465円、消費支出は14万8445円で、平均的にも赤字です。高齢単身者の暮らしは、住まいと家計の再設計なしに安定しにくい現実があります。

 

「母の不安は分かる。でも、私にも生活があります。そこを飛ばして同居を押し付けられるのは違うと思いました」

 

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