「お母さんを卒業します」…決意表明の日
「今日で、あなたたちの母親を卒業することに決めました」
ダイニングテーブルに置いた2つの封筒を前に、72歳の静子さん(仮名)は、51歳の長男・健一さんと46歳の次男・大輔さんに告げました。封筒の中身は、それぞれ100万円の札束です。
「母さん、なにこれ。それより飯は?」
困惑する息子たちを尻目に、静子さんの表情は晴れやかでした。
これまで静子さんは、絵に描いたような「尽くす母」でした。朝5時に起きて、中年になった息子たちの朝食を作り、洗濯物を畳み、彼らが仕事から帰れば温かい夕食を出す。それが母の愛だと思い込んでいたのです。
しかし、ふと気がつけば、そこにいたのは疲弊しきった一人の老女でした。
「私はいつまで、成人して四半世紀も経つ男たちの世話を焼くんだろう」
夫は数年前に他界。遺された年金とわずかな貯蓄を切り崩しながら、3人分の生活を支える日々。長男は契約社員、次男はアルバイトで「正社員じゃないから無理」と1円も家に入れず、自分の部屋の掃除すら静子さんに押し付けていました。
突き放すのは「憎いから」ではない
静子さんが動いたきっかけは、パート先に入社してきた一人の女性。彼女も、なかなか自立しない娘に業を煮やし、思い切って100万円を渡したというのです。
「結婚するのかって聞いたら、まだ予定はないっていうし。だったら、もう出ていきなさいって。結局いまだに未婚なんだけど、自立させてよかった。娘からも『突き放してくれて良かった、ようやく大人になれた気がする』って感謝されてるわよ」
それを聞いて、静子さんはハッとしたといいます。
「突き放すのは、憎いからじゃない。彼らが私の死後に路頭に迷わないため、子どものままでいさせないための、親の役目なんだ」
静子さんの年金は月12万円(遺族年金含む)、貯金は1,500万円。息子たちへの計200万円は、決して簡単に出せるお金ではありません。
しかし、これだけあれば引っ越しの初期費用や家具家電の購入も賄えます。独り立ちの準備金として、100万円ずつを「子育て終了金」として手渡すことにしたのです。

