突如、土地の借地権が8,600万円で売り出された
ここで実際にあったケースを紹介したい。
この借地は東京近郊の私鉄の駅から徒歩3分の商店街にあるが、賃貸を開始した100年前には駅がなかった。使用後には無償返還する口約束によって低廉地代での賃貸が始まったが、当時は借地権料などの概念もないため権利金の授受はない。
最初の賃貸借契約は昭和54年。それまで口約束だったものを市販の「土地賃貸借契約書」を使って書面にした。
令和4年、突然この土地の借地権が8,600万円で売り出された。地主は地主の不動産管理会社からの連絡によって知ることになった。管理会社は不動産専用サイトに地主の土地の借地権が売り出されているのを見つけた。
地主があわてて借地人に電話をするが、「譲渡承諾料は弁護士を通じて話し合う」との返答。そして借地人から不動産仲介会社の名前が通知された。
その後、仲介会社を通じて新たな土地利用計画書が送付されるのだが、そもそも自分の土地の借地権を勝手に売り出され、しかも現在の低廉な地代までも新たな借地人に引き継ぐ内容に、地主が納得できなかった。
地主は仲介会社からの譲渡提案をすべて拒否した。その後1年が経過し、ついに借地人から面会要求の電話が入るが、地主は「裁判所に訴えてくれ」と一切の交渉に応じなかった。
そして、地主から借地人に対して次の条件を提示した。
①借地権譲渡対価(8,600万円)には、契約当初(100年前)に地主が受け取るべきだったキャピタル・ゲインが含まれている。更地価格の60%を借地権と主張するなら、契約時に支払うべきだった借地権利金のキャピタル・ゲインとして譲渡対価の40%(100-60%)3,440万円を支払え。
②地代は駅前商店街であるにもかかわらず、長らく固定資産税・都市計画税の2.8倍に抑えてきたが、新たな借地人地代は固定資産税・都市計画税の5倍を支払え。ちなみに近隣他者の地代は固定資産税・都市計画税の4~6倍に設定している。
「借地権割合」を主張するなら「相当な地代」も考慮すべき
紹介事例では、過去45年間に地主が借地人から受け取った更新料を含む地代の総額は3,550万円。そのうち固定資産税・都市計画税1,200万円を地主が負担している(45年以上前の地代台帳は残っていない)。
貨幣価値の変化もあって、地主がもらった地代の総額(45年間)と現在の借地権価格を比較してもあまり意味はないが、借地人が手にする譲渡代金は地主に支払った地代総額の2.4倍にもなる。
国税の通達では、借地権の設定に際して権利金の授受がない場合、自用地価格の6%を「相当な地代」としている。これで計算すると、路線価でも460万円(182,800円×420㎡×6%)になるが、査定した更地価格(1.43億円×6%)なら860万円だ。
これに対して地主が受け取る地代は年間92万円にすぎない。国税の通達による借地権割合を主張するなら「相当な地代」も考慮するべきだろう。
国税庁が定めた「借地権割合」によって、地主と借地人の間に巻き起った不安感や不信感そして憎悪。無用なトラブルによって、先々代から100年続いてきた良い関係がもろくも崩れ去った。