「自然に囲まれた老後」のはずが…20年後に見えてきた現実
「もう、これ以上ここでは暮らせないと思ったんです」
そう語るのは、地方移住から20年を経て都市部への転居を決めた健一さん(仮名・70歳)と妻の紀子さん(仮名・68歳)です。
2人が移住したのは、健一さんが50歳のときでした。都内での仕事に一区切りをつけ、郊外の自然豊かな地域に中古の一戸建てを購入。退職金の一部を充て、「第二の人生」を始めました。
「当時は、ここが理想の暮らしだと思っていました」
広い庭、静かな環境、近所との穏やかな交流。都会の喧騒から離れた生活は、最初の数年間は満足度の高いものだったといいます。
「朝の空気も違うし、時間の流れがゆっくりに感じられました」
しかし、変化は少しずつ訪れました。
最初に感じたのは、体力の変化でした。
日常の買い物、通院、役所への手続き――そのすべてが車での移動を前提とする生活。運転が苦ではなかった頃は問題にならなかったことが、年齢とともに負担へと変わっていきました。
「最初は“まだ大丈夫”と思っていたんです。でも、だんだん夜の運転が怖くなってきて」
紀子さんも、免許は持っているものの長距離の運転には不安があり、外出の多くを健一さんに頼る状態が続いていました。
さらに大きかったのが、医療への不安です。近隣には診療所はあるものの、専門的な検査や治療が必要な場合は、片道1時間以上かかる総合病院まで行かなければなりません。
「いざというときにすぐ診てもらえない。それがだんだん怖くなってきました」
総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、高齢夫婦のみの無職世帯は平均で月約4万円の赤字とされ、生活費に加えて医療費や交通費の増加が家計を圧迫する要因となり得ます。
健一さん夫妻も、車の維持費やガソリン代、さらに自宅の修繕費が重なり、当初想定していたほど生活コストが下がらないことに気づきました。
「家賃がかからないだけで、支出が減るわけではありませんでした」
