再婚1年の父が急死「この家は私が守ります」といった後妻だが…
ところが、それから1年たって、山田さんの父が亡くなってしまいます。
父親の財産は自宅の半分の名義である約1,000万円と預金1,000万円程度で、相続税の申告は不要です。じつは、山田さんの父親が再婚までひとり暮らしをしていたこの家は、もともと山田さんの両親の共有名義であり、母親が亡くなった10年前、母親の所有分を弟が相続していたのです。
亡くなった父親の相続人は、再婚相手の女性と、山田さんと弟の3人です。しかし、再婚から日も浅いこと、また自宅の名義は半分が弟のものであることから、山田さんきょうだいは、女性にいくらかのお金を渡し、家から出て行ってもらうよう交渉しました。
ところが女性は、「いいえ、私は孝さん(山田さんの父)の正式な妻ですから…。この家は私が守ります」といって、家から離れようとしません。
「法律を調べて〈配偶者居住権〉というものがあることも知り、これは面倒なことになってしまった…と、弟と頭を抱えていたのです」
山田さんと弟は、対応を思いあぐねていました。
「ほとんど話したこともない方で、人となりもサッパリわかりません。強硬に交渉したら、かえってこじれるのではないか、弁護士を挟んだほうがいいのか、など、弟とずっと相談していました。父が死んだ悲しさなんて、まったく感じる暇がなく…」
ところが、事態はさらに大きく変わります。なんと、還暦前の再婚相手が急死してしまったのです。
父親の相続問題が片付く前に、もうひとつの難問が発生しました。
後妻の相続人は弟1人
筆者と、筆者の事務所の提携先の司法書士は、山田さんの相談を受け、まずは亡くなった後妻の相続人を探すことにしました。
すると、数週間後に司法書士から連絡があり、亡くなった後妻には子どもはなく、両親もすでに亡くなっており、唯一の相続人として弟がひとりいることが判明しました。
「遺産相続の話を、よく知らない方のごきょうだいと話すことになるなんて…」
動揺を隠せない山田さんと弟に、司法書士から意外な提案がありました。それは、後妻の弟から、相続権を譲渡してもらうという方法です。
山田さんと弟は、父親の後妻と養子縁組していないため、後妻の相続人ではありません。しかし、後妻の相続人である弟から相続権を譲渡してもらうことができれば、後妻の遺産を相続できるのです。
司法書士が間に立ち、交渉がスタートしました。
「姉とは長年にわたり音信不通、かかわりたくない」
「あっけなく、OKをもらうことができました」
司法書士が後妻の弟と連絡を取ったところ、姉とは長年にわたって音信不通であり、姉のことにかかわりたくないと、すぐに譲渡に対応してもらえたとのことです。
後妻の弟の相続分を山田さんの弟が引き受け、自宅は山田さんの弟が相続。金融資産は山田さんが相続し、無事に相続手続きは完了しました。
今回の場合、後妻の弟が「姉のことには関わりたくない」といって家庭裁判所に相続放棄を申し立てると、後妻の弟は放棄できますが、その先の相続人となる親・祖父母も亡くなっているため相続人がいない状態となり、手続きが進まなくなり、遺産が宙に浮いてしまいます。
よって、今回は放棄ではなく、相続分の譲渡をしてもらうことが妥当な方法だといえます。
相続分の譲渡は、相続人以外に行うことも可能です。また、相続しない=相続放棄と思いがちですが、そうではありません。次の相続人がいない場合、相続放棄をすると遺産は行き場を失い、手続きが進まなくなるため注意が必要です。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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