「だれが介護したと思ってるの!?」父の死後に実家占拠の独身姉、叫ぶが…「無職も独身も、本人の責任」別居の妹2人が突き放すワケ

「だれが介護したと思ってるの!?」父の死後に実家占拠の独身姉、叫ぶが…「無職も独身も、本人の責任」別居の妹2人が突き放すワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

父の死後も実家を占拠し続ける長女。「親の面倒を見たから、相続の権利がある」と強弁するも、妹たちからは冷たい視線が…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、について解説します。

父の遺産相続の問題、解決できないまま

今回の相談者は、ともに40代の会社員の幸子さんとパート従業員の美香さん姉妹です。実家の相続をめぐって長女と対立しており、問題解決を図りたいと、筆者のもとに訪れました。

 

「父が亡くなって5年。実家を独身の姉が占拠して相続手続きが進められないのです」

 

相談者は3姉妹の二女と三女で、実家に暮らしている長女、そして二女の幸子さん、三女の美香さんという構成です。おふたりは結婚して家庭を築いていますが、長女は独身で両親亡きあとも実家に1人で暮らしています。

 

「7年前に母が先立ち、父は亡くなる半年前に要介護になったので、同居の姉がいて助かったのは事実なのですが…」

 

二女の幸子さんの話から、三女の美香さんが言葉を続けます。

 

「長姉は〈私が介護をしたから、家をもらうのは当然〉と主張するのですが、母は急病で亡くなっていますし、父は介護生活といっても半年程度。そんな主張をされるほど大変だったとは思えません」

 

長女は短大を卒業後、3年ほど会社員をしていましたが、その後退職。以降はアルバイトを転々としています。

 

母親の財産は300万円程度の預貯金で、これは父親の意向により姉妹3人で分けています。父親の財産は神奈川県の郊外の自宅と預貯金1,000万円程度で、相続税はかからない額でした。自宅の名義は父親から変更していません。

2人の妹の人生に起きた変化

二女の幸子さんが現在の事情について話してくれました。

 

「じつは、夫が病気になり、家計の収入が激減しています。下の子どもの学費の捻出に困っているのです」

 

回復の見込みはあるものの、現状の家計は非常に厳しい状況だといいます。

 

三女の美香さんは夫が転職に失敗し、やはり給料が激減。

 

「一人息子の希望の進学先を、親の懐都合で変更するのはかわいそうで…」

 

美香さんも、家計を補うためパートを掛け持ちしています。

 

「父の家が売れれば本当に助かるのですが、長姉が頑として聞き入れてくれなくて…」

「親の面倒を押し付けたくせに!」と激怒

父親の一周忌を待って、幸子さんと美香さんは長姉に遺産分割の話を持ち掛けたことがあるといいます。しかし、長姉は逆上し「親の面倒を押し付けたくせに!」と激怒。

 

親族の前でいさかいをするのは避けたく、そのままになってしまいました。

 

当時、幸子さんも美香さんも、生活は安定していましたが、月日が流れたいま、当初から生活状況が大きく変わってしまいました。

 

「仕事がないのも、結婚しないのも、本人の責任ですよね…」

 

「姉はこれまで、親の貯金も家も好きにしてきました。でもそれは、私たちが援助したことになりませんか? それなのに、私たちが困ったときはそっぽを向いて、納得できません」

 

幸子さんと美香さんは、いら立ちを隠しませんでした。

「ずっと住んでいる=その人のもの」にはならない

筆者と提携先の弁護士は、おふたりの話を聞いたうえで状況を整理しました。

 

問題の家は父親の財産です。そこに住み続けていることが、独占していい理由にはなりません。また、2024年4月から、法律で相続登記が義務化され、父親名義のまま放置することはできません。

 

弁護士は、もし調停に持ち込まれても、長女の同居の寄与分は認められにくく、法定割合での分割になる可能性が高いこと、また、姉が今後も住み続けたとしても、状況が有利になることはないと説明しました。

 

二女と三女が希望する、父親名義の家の売却を実現するためには、まず家の名義を相続人へと変更しなければいけません。そのためには、「遺産分割協議書」を作成し、遺産分割の内容を決定し、3人で署名、実印押印をして法務局に提出することになります。

 

相続財産の金額から、相続税はかかりませんが、売却すれば譲渡税がかかってきます。しかし、居住者が売却すると「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が使えるため、売却した利益のうちの3,000万円までは税金がかかりません。

 

しかし、該当の家に居住していない二女と三女にはこの特例が使えないため、もしも二女・あるいは三女が相続・売却した場合は、利益のうち20%の税金(譲渡税14%、住民税6%)を払わなければなりません。

特例を使えば無税…売却したお金は均等に分割

不動産の遺産分割の方法に、代表して相続した人がほかの相続人に代償金を払うというものがあり、今回はそれが適用されるべきケースだといえるのですが、現状の長女には二女と三女に払うお金がありません。そのため、相続した家を売却し、そこから妹2人にお金を払うことになります。

 

その際「居住者である長女」が自宅を相続・売却することで、上記の居住用の特例が使えます。

 

売却価格は3,000万円と思われることから、特例を使えば「税金なし」となり、まるまる3,000万円が手元に残る計算です。

 

引っ越し費用、仲介手数料、測量費用、荷物撤去費用などを差し引くと残りはだいたい2,700万円程度となる見込みで、これを姉妹3人で分けることになります。

 

筆者は弁護士とともにこれらを長女に説明し、少しでも有利に売却して問題解決をサポートすることになりました。

 

いまの法律では、きょうだいは対等な立場です。一緒に暮らしていたという理由だけで、相続は有利になりません。

 

父親の家を3人で分け、それぞれがライフプランに合わせて活用することで、資産も生きたものとなるのです。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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