母親が亡くなって相続手続きが必要
三郎さん(55歳)が相談に来られました。母親が亡くなって、これから相続の手続きが必要になるので、アドバイスしてもらいたいということです。父親は10年前に亡くなっていますので、母親の相続人は長男の三郎さんと3人の妹の4人となります。
父親の相続では、遺言書があり、母親が全財産を相続するとなっていました。子どもたちもそれに異論はなく、手続きはスムーズに終えられたと言います。父親の財産は、自宅と隣接する長女が住む家と預金で1億5,000万円。ちょうど配偶者の税額軽減の1億6,000万円までは無税という特例を適用することができ、母親は相続税を払うことなく、手続きができたのでした。
財産はきょうだいで等分にしたい
母親の財産は自宅の土地8,000万円と隣接の長女が住む家の土地6,500万円と預金や株など1億2,700万円、葬儀費用200万円で合計2億7,000万円となりました。相続税を計算すると3,680万円。
財産は等分にして分けたいというのが三郎さんきょうだいの方針だといいます。財産を等分にして分けると1人5,400万円となります。長女は自宅6,500万円のみを相続し、差額1,100万円は多めに相続するため、代償金で三郎さんと妹に払うことで合意が得られました。
実家を3人で共有する?
次に三郎さんと次女、三女の相続の仕方です。すべてを等分にする場合、預金・株は解約して3等分にすることは可能です。次に実家も3人で共有することは可能ではありますが、一人暮らしをしていた母親が亡くなったいまは、空き家になっています。
三郎さんも仕事の関係で実家を離れて久しく、すでに自分で家を購入しています。次女、三女も夫や共有名義の家を持っている状況です。結果、だれも実家に戻って生活する見込みはないということになり、空家の実家は3人で売却して分けようと決まりました。
自宅を所有していても家なき子特例が使える!
相続税申告のコーディネートを担当した担当者と申告を担当する税理士で節税案を検討しました。母親の財産は空き家の自宅と隣地の長女の家で、長女は親の家に住んでいる使用貸借ですので、節税の余地はありません。また、預金・株も亡くなった日の残高が財産の額ですので、節税の余地はありません。
唯一可能性があるのが、自宅の小規模宅地等の特例です。同居する子どもはいないため、次は自宅を所有することのない「家なき子」に該当するかという点になります。
確認すると3人とも、自分や配偶者が自宅を所有しているのですが、住んでいる次女、三女と違い、三郎さんは自分の自宅に住んでいない状況だといいます。
どういうことかというと、上場企業に勤務する三郎さんは5年前から地方都市に勤務しており、家族とともに社宅住まいだといいます。自宅はたまに帰るときのために賃貸はしていない状況でした。税理士にも確認し、これで家なき子として小規模宅地等の特例が使えると判断できました。
小規模宅地等の特例を最大限に生かす遺産分割協議を提案
実家を3人で等分にということが前提だとすると、実家を3人の共有名義にするとなりますが、これでは、小規模宅地等の特例は三郎さんしか使えないため、節税効果は3分の1になります。
そこでこちら側が提案したのは、小規模宅地等の特例を最大限に生かす遺産分割の仕方です。実家は三郎さんが代表で相続し、売却後に、経費を引いた残りを3等分して現金を渡す「代償金」を払う方法です。
こうすることにより、家の名義は三郎さんだけですが、次女、三女にも公平に財産を分けることができます。
特例により6,000万円評価が下がり、相続税は1,360万円下がる!
この方法で相続税を計算すると1人の税率は30%から20%になり、相続税は3,680万円から、2,320万円に下がります。結果、1,360万円の節税ができるのです。
三郎さんきょうだいはこの方法で合意され、遺産分割協議書が出来上がりました。実家がどれくらいの価格で売却できるかを相続税の申告期限までに査定して、実際の売却と大きな差異がないようにして、代償金の提案もしています。
母親が亡くなったあとでも、相続税が節税でき、公平な分け方ができてよかったと三郎さんごきょうだいも喜んでいます。これから実家も売却して、実際に財産を分割する場面になりますが、引き続き、サポートしていきます。