(※画像はイメージです/PIXTA)

相続の現場では、関係者同士がぶつかり合うのはよくあることです。問題が複雑化して当人同士の手に負えなくなれば、専門家のところへ持ち込まれることになりますが、たいていは穏当な着地点を見出せます。しかし、ときにはそこで、耳を疑う残酷な言葉を聞くこともあります。不動産と相続を専門に取り扱う、山村法律事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が解説します。

仕事も結婚もせず、要介護の両親に尽くした姉だったが…

ある50代女性のケースです。この方は独身で、両親と同居してずっと介護をしてきました。以前は一般企業で働いていましたが、両親が次々倒れたことで介護離職せざるを得ず、結婚のタイミングも逃してしまったということでした。

 

この方には弟がいますが、若いときから不真面目で放蕩の限りを尽くしており、両親の病気にも介護にも無関心です。家に帰るのはお金の無心をするときだけで、強い態度を取られると、両親は渋々ながらもお金を渡してしまうということでした。

 

両親はそんな弟の生活ぶりを嘆いており、かわるがわる相談者の女性に愚痴っては、「頼りになるのはお姉ちゃんだけ」と泣くように言っていたといいます。その方も、両親の愚痴を聞き、慰めたり励ましたり、一緒になって弟を怒ったりしていました。両親を支えられるのは自分しかないと、気丈にがんばってきたのです。

 

ところが、父親の病状が悪化して余命宣告を受けると、両親の態度は一転。

 

「弟は、わが家の長男で跡継ぎ。独身のお姉ちゃんと違い、かわいい孫たちの顔を見せてくれて、本当に親孝行だ。お姉ちゃんはこれから、お父さんとお母さんに代わってあの子と孫の面倒を見てやって…」

 

その後父親は、長男である弟に全財産を残すという遺言を残して旅立ちました。

 

「私は、弟の尻拭いに追われる両親を気の毒に思って、自分を犠牲にして尽くしてきたのです。私の人生はいったい何だったのでしょうか」

 

この女性は、弟と遺産分割を巡って係争中です。

「親の思い」「子どもの思い」には、かなりの温度差があることも

親の思いと子どもの思いは、しばしば温度差がある・乖離していることがあります。そのため、事前にしっかりと双方の意思確認をしておくことが大切なのです。

 

個人的な憶測のみで暢気に構えるのは危険です。なにも行動することなく相続を迎え、想定外の展開に愕然とするなど、ぜひとも回避したいところでしょう。

 

相続は、早い段階で手を打たないと、選択肢がどんどん減ってしまいます。相手の配慮に期待して黙っているだけでは、とんでもない結果になる可能性もあると認識し、注意を払うことが大切です。

 

(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)

 

 

山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦

 

 

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