ウチのアパートから退去してほしいが…賃借人との立ち退き交渉、大家さんの立場を危うくする〈絶対NG行為〉とは?【不動産専門弁護士が解説】

ウチのアパートから退去してほしいが…賃借人との立ち退き交渉、大家さんの立場を危うくする〈絶対NG行為〉とは?【不動産専門弁護士が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

アパートやマンションの賃貸業を行う大家さんにとって、想像以上に大変なのが「立ち退き交渉」業務。しかし、この交渉には多くの注意点があり、うかつな方法をとると、重大な法律違反になりかねません。留意点を見ていきましょう。不動産と相続を専門に取り扱う、山村法律事務所の代表弁護士・山村暢彦氏が、立ち退き交渉における注意点について詳しく解説します。

意外と知らない…弁護士以外への立ち退き交渉依頼は法律違反

近年では、サラリーマンの傍ら、不動産賃貸業を営む方も増えています。不動産賃貸業は長いスパンでの取り組みが求められますが、そのなかで避けて通れないのが、物件の老朽化の問題です。老朽化すれば建て直しが必要になり、建て直しが必要になれば、賃借人に立ち退いてもらわなければなりません。

 

しかし、この立退き交渉について、うかつな行動を取ってしまうと、法律に触れることになりかねないのです。

 

「法律事件」に関する業務は、弁護士法第72条によって、原則として弁護士以外が行ってはならない、と定められています。

 

立ち退き交渉も、下記の判例によって、法律事件に該当するとされています。

 

「賃貸人の代理人として、その賃借人らとの間で建物の賃貸借契約を合意解除し、当該賃借人らに建物から退去して明渡してもらうという事務をすること」

 

(広島高判平成4年3月6日判時1420号80頁)

 

つまり、弁護士以外が立ち退き交渉を行うことは法律違反であり、不動産管理会社への立ち退き交渉の依頼は許されていません。したがって、入居者の立ち退き交渉は、原則として大家さん自身が行うことになるのです。

管理会社から賃借人に「大家さんの伝言」を頼むのはギリギリOK

もちろん、事実上、管理会社が手伝ってくれるような場面もあると思います。たとえば、管理会社が契約の更新業務を行っている場合、そのタイミングで、

 

「大家さんが〈この物件はもう古いので、今回の更新を最後に立ち退いてくれませんか?(引っ越ししてくれませんか?)〉と、いっていましたよ」

 

「引っ越し費用がないと動けないと思いますが、大家さん側は立退料として〈引っ越し費用として、6ヵ月程度の家賃を保証する〉ことを考えているようです」

 

など、大家さんが考えた内容をそのまま通知する役割を管理会社に依頼することは、法律上、ギリギリ問題ないと考えられています。

 

とはいえ、具体例とすればこのような形になるものの、実際のところ「管理会社と賃借人が口頭や電話などで話している」のか、「メッセンジャー(使者)として大家さんの意向を伝えている」のか、あるいは後述するように「管理会社が独自に交渉している」のかが、曖昧になってしまいがちです。

 

そのため、実務的には、更新時期の通知に加え、大家さんの立退意向と立退料を「管理会社から一方的に書面で通知するにとどめる」ほうが安全だといえるでしょう。

 

また、下記のように、

 

「大家さんは立退料を〇〇万円くらい用意しているようですが、どうでしょうか?」

 

「なるほど、そちらにはそういったご事情があるのですね。では立退料をこのくらいにしてもらったらどうですか?」

 

といった、互いの意見や理由の整理・調整を、管理会社側が独自に判断したり、行ったりしてしまうと、大家さんの「代理行為」となり、法律に抵触してしまいます。

 

こういった立ち退き業務について、大家さんが管理会社へ別途の報酬を出してしまうと、こちらも弁護士法第72条に抵触します。管理会社ができることはあくまでも「サポート」であり、交渉自体は大家さん自身で行うことになるのです。

 

大家さん側は、立ち退き交渉が弁護士法に抵触することを知らないことも多く、悪気なく管理会社に頼んでしまう方も多いため、十分に注意が必要です。

部屋の荷物を勝手に処分・部屋の鍵を勝手に替えるのは厳禁!

そのほか、注意すべき行為に「夜逃げした部屋の荷物を勝手に処分する」「賃料不払いが続いている部屋の鍵を替える」といったものがあります。これらの行為は、絶対に行ってはいけません。

 

法律上、アパート自体が大家さんのものであっても、「貸した部屋」は「他人のもの(占有)」であるため、勝手に部屋へ入る、鍵を付け替える、荷物を処分する、といった、もの(占有)を侵害する行為は、器物損壊ないし建造物侵入罪になりかねないからです。

 

夜逃げ等で連絡が取れない場合でも、部屋の荷物の所有権は借主側にあるため、それらを勝手に処分する行為は「窃盗ないし横領」罪になってしまいます。

 

大家さん側からすれば大変もどかしいですが、賃料不払い等の借主側による権利侵害に対し、実力行使で対処する自力救済行為は、原則全面的に禁止されています。たとえ連絡がつかない場合でも、借主の権利に配慮し、裁判所を通さなければ適法な手続きにならないのです。

 

最近では立ち退き問題を扱う弁護士事務所も増えているとはいえ、トラブルを大きくするのを防ぐためにも、極力弁護士を介入することなく、大家さん自身で対応するのが好ましいといえます。その際、直接交渉に関する相談やアドバイスを管理会社から受けることについては、法律上まったく問題ありません。

立ち退き交渉は「借主側の事情」に配慮することがポイント

大家さんは、立退料を求めてくる賃借人に対し、どうしてもクレーム対応のような感覚に陥ってしまいがちですが、日々の仕事や生活の合間を縫って引っ越しをするのは大変です。借主側のそれらの事情に大家さんが耳を傾ける態度がなければ、なかなか交渉はうまくいきません。

 

とくに建物の老朽化による立ち退きは、結果を急ごうとするほど、賃借人・賃貸人間のトラブルが増えてしまいます。老朽化建物の運営計画は、大家さんが借主の気持ちを慮りながら、更新時期を踏まえつつ長期的に対応していくことが大切なのです。

 

(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)

 

 

山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦

 

 

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