大企業に入社すれば一生安泰はもはや幻想
つい最近まで「大企業に入社すれば生涯まずは安泰」という考え方は、日本のサラリーマンの誰もが疑うことなく受け入れていた大原則でした。
確かに令和4年版「労働経済の分析」(労働白書)を見ても、初職(初めてついた仕事)の企業規模が大きいほど転職経験者の割合は低い傾向にあります。
しかしながら、この数字も年齢層が高くなるほど企業規模による差は縮小し、「55~64歳」では初職の企業規模にかかわらず、転職経験者の割合はおおむね8割前後まで上昇しています。
初めて勤めた会社が大企業なら、「給与も働く環境も文句はない、当面転職する理由が見当たらない」と考える人も多いのかもしれませんが、長く勤めていくうちに大企業勤務のサラリーマンも「このままでいいのだろうか?」と自らセカンドキャリアの道を模索し始めたり、事業構造改革などのリストラにより、キャリアチェンジを余儀なくされたりするケースも増えてきます。こうした事情がこの数字に表れています。
筆者が大学時代に所属したゼミナール同期生7人のうち、60歳定年を過ぎても初職(新卒で入社)の会社に今も勤務している者は、わずか1人だけです。約40年前(1984年)に入社したいわゆる最後の終身雇用制の〝恩恵〟を受けた世代ですら最後まで入社した会社でキャリアを全うできたのは、わずか15%にすぎません。
40年前入社者でこの数字ですので、最近になればなるほど初職の会社での残存率が低くなっていることは間違いありません。人生100年・現役80歳時代、誰もが例外なくファーストキャリアで終わることはなく、セカンドキャリアにいつかはキャリアチェンジする必要があるという前提で中長期キャリアを考えていかなければならないのです。
社会的にも要請されているキャリアチェンジの必要性
令和4年版労働白書を見ると、それでも日本は勤続年数が10年以上の雇用者が45.9%と30%前後の米英などに比べ多く、同じ会社で長く働く傾向は変わりません。特に役職のある男性が転職などに慎重な傾向がデータにあらわれています。
同じく労働白書からの引用ですが、例えば係長級の男性は37.7%が転職を希望していますが、実際に転職活動をしている人は13.1%。2年以内に転職した人が11.3%にとどまっています。課長級も、希望者35.0%に対し、活動者が12.2%、2年内の転職者が13.3%という数字です。
年齢が高くなるにつれセカンドキャリアチャレンジのハードルが高くなることがこうしたデータにも表れています。また、令和4年版労働白書では、労働移動の活発さと技術進歩などを示す全要素生産性(TFP)の伸びを各国データと比較し、「弱い正の相関がある」と分析しています。
すなわち、労働移動(転職)が活発だと「企業から企業への技術移転や会社組織の活性化につながり、生産性向上にも資する可能性がある」ということです。
最近、国が率先して兼業・副業促進や自律的キャリアデザイン促進のためにキャリアコンサルタントの増員などを行っていますが、こうした動きも労働の流動性(転職)を高めて生産性向上につなげようという思惑を実現するための方策です。
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