(※画像はイメージです/PIXTA)

地主の相続において、後継者選定は非常に難しい問題です。承継前までは上手く準備が進んでいると思い込んでいても、承継後に想定外の事態となるケースも少なくありません。本記事では白川家(仮名)の事例とともに、地主の相続における後継者選定の注意点について、ティー・コンサル株式会社代表取締役でメガバンク・大手地銀出身の不動産鑑定士である小俣年穂氏が解説します。

資産管理会社の活用で、大地主白川家は安泰!?

株式会社白川(仮名)は、名前のとおり白川家の資産管理会社であり、都心部における収益性の高い不動産を複数所有している。

 

もともと白川家は地主一族であるが、不動産事業においても大きな成果を出しており、不動産市況が悪化したタイミングにおいて現金で優良不動産を購入し、いまでは株式会社白川の年間家賃収入は5億円程度まで成長している。ただし、不動産賃貸業が主業であることから一族のほか社員は経理や総務が数名と営業が数名の小規模な家族経営の会社である。

 

代表取締役の白川秀広は、65歳のときにその10年後の75歳で第一線から退くことを決め、承継の対策を進めてきた。長男の一成(48歳)にはすでに株式の30%を移転しており、秀広の保有する70%分を今年中に譲渡することを決めている。承継に向けた株価引下げ対策を5年前から本格的に取り組んでおり、移転に向けた準備を専門家らとともに入念に進めてきた。

 

白川家においては、原則として代々長男が100%株式を所有することを決めており、私が承継した際においても、このルールを遵守したことから弟や妹とも揉めることはなかった。承継する資産の割合という点では、長男である秀広が当然大きくなることから弟や妹も取締役として事業に参画してもらい役員報酬として生活に困らないような手当を継続して行ってきた。

 

承継の準備が整った、とある日に、長男の一成に対して2人で大切な話をしたいので社長室に来るように指示をした。承継にあたってのスケジュールについて、以下のとおり伝えた。
 

・秀広の保有する株式70%については今夏、一成へ譲渡を行う
・譲渡と同時に一成を代表取締役「社長」とし、秀広は代表取締役「会長」に就任する
・取引先が多岐にわたることから社長交代に伴う挨拶状を送付するとともに、当面は主要取引先への対応は引継ぎを兼ねて原則として2人で行う
・早ければ2年程度、長くても5年以内には承継を完了させ、秀広は代表取締役も外れ「相談役」として一定の報酬を得ながら経営からは距離を置く

 

一成からは「喜んでお受けいたします。いままで社長としての職務をまっとういただきありがとうございました」と頼もしい言葉があり、安心して任せられそうだと安堵した。

 

その数日後には長男以外の子供3人(長女、次男、三男)に対しても、同様の内容を伝え、長男をしっかりと支えるようにと伝えた。次男からは「兄貴は社員や取引先からも評判が芳しくないが、本当に社長にして大丈夫なのか」との話があったが、代々長男が承継することが白川家の取り決めであり、「余計な意見をするな」と釘を刺した。

 

 

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