(※画像はイメージです/PIXTA)

地主の相続において、後継者選定は非常に難しい問題です。承継前までは上手く準備が進んでいると思い込んでいても、承継後に想定外の事態となるケースも少なくありません。本記事では白川家(仮名)の事例とともに、地主の相続における後継者選定の注意点について、ティー・コンサル株式会社代表取締役でメガバンク・大手地銀出身の不動産鑑定士である小俣年穂氏が解説します。

議決権

地主の相続対策において資産管理会社の活用は有効であり、金融機関や税理士、コンサル会社などが設立の提案を行うケースも多いと思われる。

 

会社は株主の議決権割合によって、会社に対する影響力が異なる。議決権の2/3以上を保有していれば単独で特別決議が可能であり、過半の保有であっても普通決議が可能となる。したがって、実質的に2/3を保有していれば会社は当該保有する株主の意見を通すことができる状況となり、いままで秀広が70%を保有していた理由もそのためである。

 

秀広の株式をすべて一成に移転したことで、現状の株式会社白川は一成のコントロール下となった。

 

相続対策にともなう承継においては、「種類株式」を導入して拒否権を残す方法や、役員選任権を残して人事面での影響力を残す方法がとられることがある。また、資産管理会社のような非公開会社においては「属人的株式」を導入して、1株の議決権を増やすことで後継者にほとんどの株式を移転させたとしても会社をコントロールする権限までは移転させないといった方法も採用される。

 

これは、後継者として相応しいかどうか見極めるまで、権限を与えることを阻止することが目的である。当然、当初から後継者として問題ないと判断していればすべての株式を承継させることも妥当な選択である。

「親父は金輪際、会社にかかわるな」

株式の承継が完了したのも束の間、一成から「今後、親父には会社に関与してもらいたくない」と一方的に伝えられた。取引先への挨拶状も一成の代表取締役社長就任のみで、秀広は代表取締役を辞任したとする内容に差し替えたうえで昨日発送したとのことであった。

 

また、叔父(弟)や叔母(妹)についても同様に役員を辞任するように適宜伝えていくとともに、それぞれに役員退職金を支払うことで今後会社から報酬は一切支払いを行わないこととし、一切会社にかかわることも禁ずる方針とのことである。

 

一成の弟や妹についても、今後役員や社員として会社に入れるつもりもなく、代わりに妻を副社長として就任させるとのことであった。

 

秀広は一成がすべての株式を所有していることから、取締役解任が可能であることは理解していたが、なぜこのような対応を取ったのか質問した。一成からの回答は、不動産賃貸業においては取引先をしっかり監視しておけば基本的には経営は可能であり、かねてからたいして仕事をしていない親族の人件費が重荷になっていると感じていたことから、コストカットの一環として実施するに過ぎないとのことであった。

 

取締役である秀広の弟や妹のことを考え訴訟することも頭をよぎったが、大切な取引先に対して「お家騒動」を明らかにすることは長期的な目線でマイナスに働くであろうと考えを改め、強い憤りを覚えたが大人しく従うことにした。それと、同時に次男からの「兄貴で本当に大丈夫か」との助言を遮ったことを深く反省した。

 

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