増税による景気への悪影響、固定資産税は所得税増税より小
筆者は、財政赤字をそれほど気にしていません。財政が破綻する可能性は小さいと考えているからです(拙稿『日本政府の財政赤字は巨額だが…「財政破綻は起こらない」といえる、3つの理由【経済評論家が解説】』参照)。無理に増税して景気が悪化するようなことは避けるべきだと考えています。景気が悪化すれば失業が増えてしまいますし、「景気は税収という金の卵を産む鶏」なので、財政が悪化してしまいかねないからです。
しかし、財政赤字を放置していいと考えているわけでもありません。財政赤字が拡大して政府の借金が増えると、人々が持つ資金が増えるので、なにかの拍子にインフレが加速してしまうリスクが高まるからです。コロナの際に国民に一律10万円振り込まれましたが、あれが一律1億円だったら、きっとインフレになっていたでしょう。そのイメージです。したがって、失業が増える心配が少ないのであれば、増税して財政を再建すべきなのです。
固定資産税の増税は、景気に与える悪影響が所得税増税よりも小さいでしょう。増税で人々の懐が寂しくなる効果は同じですが、固定資産税の高い地域から低い地域に人が移住するならば、住宅建設等が促進されると期待できるからです。
しかも後述のように、東京一極集中を是正するメリットも見込まれますから、財政再建との一石二鳥が期待できるわけですね。
東京の「一極集中」を是正できる
東京は過密です。通勤ラッシュは酷いし、大気汚染等もあります。後述のように災害時に大混乱が起きる心配もあります。東京一極集中は、皆が互いに迷惑を掛け合っている状態なので、それを緩和することは、皆のメリットになるわけです。
問題は、個々人が「自分にとって東京に住むメリットが、コストを上回っているか否か」で意思決定をしているということです。自分が東京に住むことにより大気を汚していること等々は、東京に住むか否かの意思決定には影響していないのです。公害企業が操業を続けるか否かの判断に、周囲への悪影響を考慮しなのと同じです。
周囲に2万円分の迷惑をかけている公害企業が1万円しか稼いでいないなら、操業を停止させるべきですが、10万円稼いでいるなら、2万円の迷惑料を払わせて操業を続けさせるべきでしょう。それと同様に、東京の住人には「迷惑料」を払わせればよいのです。
東京に住めば大いに稼げる人、東京が好きだから金を払っても住み続けたい人は住み続ければいいし、そうでない人は出て行けばいいのです。企業も同様で、東京で稼げるなら東京にとどまればいいのです。営業部門は都心に、経理や人事は郊外(地方都市を含む、以下同様)に、という選択肢もあるでしょう。
「東京都民は一律に迷惑料を払え」というのでは、都心から郊外への移転を促すことができませんし、近隣諸県との県境を超えるだけの人が増えてしまう可能性もあります。それならば、固定資産税を上げればよいのです。都心から郊外に引っ越しする人は増えるでしょうが、県境を越えるだけの転居は増えないでしょう。
税の増収分を「災害対策」に活用すれば…
東日本大震災の際、東京では帰宅困難者が大勢出ましたし、歩道を人が埋め尽くしていました。火事や建物倒壊が(ほとんど)なかったからよかったものの、帰宅の人波を火災が阻んだりしたら、大惨事が起きても不思議はなかったでしょう。
阪神淡路大震災のときのような火災が、人口密度の高い東京で多発することを考えるとゾッとします。そうしたリスクを減らすためにも、東京の人口を減らす必要があるのです。
大災害が発生したときになにが起きるかは、発生してみないとわかりませんし、考えたこともないという人も多いでしょう。劇場火災の可能性を気にせず劇場に行っている人が多いのと同じです。
しかし、我々はすでに地方都市での惨事を何度も見ています。そして、東京で同じことが起きたら、それよりはるかに悲惨なことが起きるということだけは、容易に想像できるでしょう。観客50人の劇場と1000人の劇場で火災が発生した場合の被害の大きさを想像してみると、イメージが持ちやすいかもしれません。
固定資産税は地方税なので、ただでさえ税収の多い大都市が潤うだけだ、という可能性はあります。しかし上記を考えれば、大都市ほど防災をしっかりする必要があるわけですから、「税収増は災害対策に使う」とでも決めておけばよいのではないでしょうか。
建物の耐震補強は当然ですが、老朽化した水道管の交換等も急ぎましょう。何百万人が断水したら給水車が足りませんから。火事が発生したとき、道路が混んでいて消防車が動けないと困るので、放水できるヘリコプターとヘリポートの整備も必要かもしれませんね。筆者は防災に詳しくありませんが、専門家に頑張っていただきたいものです。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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