家賃引き下げでは対処不可能…売却しか手がない
賃貸経営が苦しくなる主な理由は、賃料の低下と金利の上昇、修繕費など経費の増加で、これらの問題は、事業開始後20年くらいして顕在化することが多いようです。借入金の返済が終わっても、それで安泰になるわけではありません。
筆者は上記の相談者の方から「マンション建築当時、ハウスメーカーが事業収支シミュレーションを見せながら〈将来30年間にわたって黒字の安定経営が続く〉といった説明をされた」ことを、あわせて伺いました。実際、このような話をされてアパート建築に踏み切った方も多いと聞きます。
しかし、そういった事業収支では、賃料収入が30年にわたって一定だったり、空室リスクや修繕費用が加味されていなかったりと「受注のための楽観的な内容」になっていることが多いのです。
では実際に、どれほど家賃の引き下げをすればよいのでしょうか? 新築物件と中古物件の賃料を比べると、中古物件の賃料のほうが低くなります。東京都でも築年数が1年異なれば、賃料単価は1%ほど低くなります。
同じ立地で新築なら月額10万円の家賃でも、築25年になれば月額7万5,000円程度になるでしょう。入居者の入れ替えのたびに、賃料は下がる可能性があるのです。
管理会社とサブリースを結び、賃料保証がある場合は、ある程度の空室リスクを軽減できますが、サブリースでも賃料の引き下げを求められることがあるため、賃料引き下げによる収入減は免れません。
空室率の問題もあります。空室率を割り出すには、入居から退去までの期間と、入居者入れ替えのために空室になる期間の比較が必要となります。一般的に、退去後に部屋の原状回復工事や入居者募集活動には、3ヵ月ほどかかります。入居から退去まで平均4年と仮定すると、4年間のうち3ヵ月間が空室となるため、どれだけ頑張っても、6%ほどの空室率が発生します。
これらの問題点を総合的に考慮すると、相談者の方の物件は、この先賃貸経営を立て直すことは難しいと思われます。したがって、借入金を返済できなくなる前に、思い切って売却することをお勧めします。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
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