銀行が「高金利の定期預金」を笑顔で勧めるワケ
現在、普通の銀行預金の金利は、限りなくゼロに近い水準なのですが、時として「いまだけ特別に、キャンペーンとして〈金利4%〉で100万円の3ヵ月物定期預金を預かって差し上げます!」といった誘いを受けることがあります。
しかし、銀行は慈善事業ではありませんから、無料で客にプレゼントをするはずはありません。当然、「100万円の投資信託を買っていただければ…」といった条件が出てくるわけです。
筆者は投資信託には肯定的なので、客が投資信託を購入してプレゼントを受け取るということ自体は悪い話だとは思いませんが、気になることが3つあります。
1つは、1度に多額の投資信託を購入するより、毎月少しずつ積み立てた方がリスクは少ない、ということです。購入した日がたまたま株価の高い日であったら、大きな損失を被ってしまうかもしれませんから。キャンペーンは、1度に大量の投信を買わせようとするものなので、慎重な検討が必要でしょう。
2つ目は、プレゼントに目が眩んで契約する客が多いかもしれない、ということです。「今だけのキャンペーンです」などと言われると、焦って契約してしまう人も多そうですからね。
もう1つは、このパッケージが「客の多くが情報弱者であることを前提としたものだ」ということです。客の多くが情報強者であるならば、別の商品パッケージが採用されるはずだからです。これについては後述します。
「金利4%の3ヵ月定期」で得られる金利を計算してみよう
「金利4%の100万円定期なら、金利が4万円もらえる」と考えている読者もいるかもしれませんが、そうではありません。「100万円の1年定期で金利が4%ならば、金利は4万円ですが、期間が3ヵ月なので、金利は1万円です」ということになります。税金が20%強かかりますから、手取りは8,000円弱ですね。
場合によっては、「定期預金が満期になったあとは自動継続してください」と頼んでおけば、その後も金利が4%が続くと思う人もいるかもしれませんが、よほどお人好しな銀行でない限り、自動継続後は普通の3ヵ月定期になりますから、金利はほとんどゼロです。定期預金を解約しに行く電車賃が出るか否か微妙です(笑)。
注意! 商品は客の「情弱っぷり」を見越した設計になっている
投資信託の販売手数料を3%だとすると、100万円の投資信託を売った手数料は3万円です。客に1万円の金利を払うと、銀行の利益は差し引き2万円です。客は、3万円の手数料を払って8,000円弱の金利を受け取るので、差し引き2万2,000円強の出費です。差額の2,000円強は税務署の収入です。
これは大変もったいないことです。わざわざ税務署に「献金」するような商品パッケージになっているわけですから。もしも客の多くが情報強者であるならば、銀行は別の商品設計をしたでしょう。
たとえば「100万円以上の投資信託を買って下さった方には、2.1%という優遇手数料率を適用します」というものです。銀行の収入は2万1,000円、顧客の出費も2万1,000円、税務署の収入はゼロになるでしょう。
銀行にとっても客にとっても有利な商品パッケージが採用されないということは、銀行が「客の多くは情弱だから、高金利定期のほうが投信が売れるだろう」と考えているのでしょう。
筆者としては、どこかの金融機関が「手数料率2.1%キャンペーン」を実施して、そこに多くの客が流れていくことで、多くの銀行が「顧客は情報弱者ではなく情報強者のようだ。わが銀行でも商品パッケージを考え直そう」と考えてくれるようになれば…と期待しているのですが。
銀行、投信等の「販売手数料収入獲得」にフルスロットル
余談ですが、銀行が投資信託や保険等の販売手数料ビジネスに注力している事情も知っておきましょう。それは、本業(低い金利で預金を預かり、高い金利で貸出をして、金利差で儲ける)が儲からないからです。
ゼロ成長時代なので、設備投資をする企業は多くありません。そこで、設備投資資金を借りる代わりに「利益のうちで配当に使わなかった分は銀行借り入れの返済に使う」という企業が多いのです。
銀行としては、貸し出しビジネスが減ってしまうのは苦しいので、金利を下げて他行から客を奪おうとしますが、他行も同様に金利を下げるので、貸出金利が下がるばかりで貸出量が増えないのです。
預金については、集めなくても他の銀行から金利ゼロで資金を借りて来ることができるわけで、預金部門は不要なのですが、解散してしまうわけにも行きません。
そこで、預金の顧客に投資信託や保険を売って、せめて手数料を稼ごうとしているわけです。預金の窓口であれば、だれがいくら持っていて、いつ退職金が振り込まれたのかを知っているので、他の金融機関より圧倒的に有利な商売ができるでしょうから。
本稿は以上ですが、資産運用等々は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
塚崎 公義
経済評論家
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