日本人の金融資産、いまなお「銀行預金」が圧倒的
欧米諸国と比べて日本人は、金融資産に占める預貯金の比率が大幅に高くなっています。金融資産が高齢者に偏っていることが一因なのでしょうが、日本人の遺伝子がリスクを嫌う特徴を持っているという話も聞きます。
バブル崩壊やリーマン・ショック、プラザ合意等を経験していない若い人々の間では、株式投資等への抵抗感がそれほど強くないとも考えられますので、政府の「貯蓄から投資へ」「貯蓄から資産形成へ」といったスローガンや、新NISA導入などを受けて投資する人も増えているようです。
バブルの頃までは「株式投資はバクチだから真っ当な人間は手を出すべきではない」と考える人も多かったわけですが、最近では「株式の長期保有はバクチではなく、投資」だと理解する人が増えているようです。短期売買はバクチですが、長期保有は企業が生み出す価値の分け前にあずかろうという行為であることが、理解されはじめているのでしょう。
これは大変望ましいことだと筆者は考えています。それは、預金はインフレに弱いリスク資産だから、預金以外にインフレに強い資産も持っておく方がむしろ安全だ、と考えているからです。
インフレの到来はほぼ確実、現預金のまま放置しては…
バブル崩壊後の長期低迷期、日本経済はデフレに苦しんでいました。そのようなときには、個人の老後資金を全額銀行預金で持っていても問題なかったわけです。
しかし、最近では少子高齢化に伴う労働力希少によって賃金が上昇し、それが売値に転嫁されることで消費者物価が上がるようになっています。少子高齢化は今後も続くでしょうから、マイルドなインフレは今後も続く可能性が高いと考えておいたほうがよいでしょう。
毎年1%のインフレが30年間続くとしたら、銀行預金の金利は概ねゼロで推移するでしょうから、老後資金は30%目減りします。預金自体は減らなくても、預金で買える物の量が減ってしまうのです。これはあまりにも大きな損失です。
資産運用には「リスクシナリオ」も考慮して
もっとも「予期せぬ事態となって老後資金が枯渇する」というリスクも、回避できるなら回避したいところです。
たとえば、南海トラフ大地震が発生すれば、復興資材の需要が激増する一方で、国内の生産力は激減するでしょうから、輸入が激増するはずです。そうなれば、輸入のためのドル買いが著増し、ドルが急騰するでしょう。
ドルが急騰すれば、すべての輸入品の価格が急騰します。日本はエネルギーや食糧の多くを輸入に頼っているわけですから、多額の銀行預金をもっていたとしても老後資金が足りなくなる可能性は十分にあるでしょう。
日本の財政破綻リスクを懸念する人が、知っておくべきこと
筆者はあまり心配していませんが、財政が破綻するリスクを懸念している人も多いようです。そうした人は、インフレに備えておくべきでしょう。
政府は、借金の返済に困ったら日銀に紙幣を印刷させて借金を返済するかもしれません。そうなれば、激しいインフレになる可能性が高いでしょう。
あるいは、「日本政府は破産を免れない」と多くの人が考えるようになれば、日本円を持っているよりも、外貨や実物資産を持っている方が安心だと考える人が増え、外貨や実物資産が大幅に値上がりするでしょう。
インフレに強い資産にも、資金分散しておこう
「株や外貨は、値下がりする可能性があるリスク資産だから持ちたくない」という人も多いのですが、上記のように、預金だってインフレで目減りするリスク資産なのです。
それなら、さまざまなリスク資産をバランスよく持っておくべきです。そうすれば、最悪の事態に陥る懸可能性を下げられるでしょう。「インフレで預金が目減りし、同時に株も外貨も暴落する」という可能性は大きくないからです。
「すべての卵を1つの籠に入れるより、2つの籠に分けて両手で持つほうが、最悪の事態を避けやすい」ということですね。
しかも、株と外貨はインフレに強いという性格がありますから、「インフレで預金が目減りし、同時に株も外貨も暴落する」という可能性はますます小さいのです。
もっとも実際には、米ドル紙幣を持っていると、米国がインフレになったときに困りますから、米国株式を持っているほうが好ましいでしょうし、株式そのものよりも、米国株式に投資する投資信託を持っているほうがよいでしょう。投資信託の購入も、一度に買うのではなく、毎月積み立てていくほうが安全です。
そして、非常に重要なことですが、株価が暴落したときでも、狼狽売りをせず、積み立てを中止することもせず、淡々と決めた通りに積み立てを続けることです。過去に暴落したときに積み立てをやめてしまった人々は、今頃後悔しているでしょうから。
そのあたりのことは、別の機会に詳述しましょう。
本稿は以上ですが、資産運用等々は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
塚崎 公義
経済評論家
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