安定収入と上得意には要注意
何度も言っているが、僕は新卒で入った会社にはとてもお世話になっている。橋梁点検という今の商売につながるスキルを学べたことはもちろん、大学院に行っている間、その後の1年間もアルバイトとして雇ってもらい、生活することができた。
じつは、起業してからもお世話になっている。会社を始めて最初の1年間は、前職場が現場監督の仕事を継続的に発注してくれた。これが毎月の安定収入につながった。アルバイトを辞めても、今度は外部の業者として使ってもらえたわけだ。とてもありがたかった。
にもかかわらず、僕は1年ほどで前職場からの依頼を断る方向に進んでいった。このやり方では危ないと思ったからだ。
仕事をもらえるのは本当にありがたいけれど、前職場からの依頼をこなしていると、他の仕事をする余裕がほとんどなかった。一人の会社だから、別の社員に任せるというわけにもいかない。だから起業した当初から、自分で担当できない仕事は下請け業者に発注していたほどだ。もちろん、単価の安い仕事で、人に頼むと利益はほとんどなかったけれど。
これの何がまずいかというと前職場が最大の「上得意」で、売り上げの9割くらいをもらっているという状況なわけだ。 何か事情が変わって前職場からの発注が止まったら、売り上げがほとんどなくなることになる。
安定しているように見えて、極めてリスキーな状況である。当時の僕は知らなかったのだが、のちに経営者仲間から教えてもらった格言がある。
「上得意の売り上げ比率は、30%を超えたら危険」
僕の会社を気に入って、安定的・継続的に、まとまった量の発注をもらえる「お得意さま」がいるというのは、うれしいことだ。心強いともつい思ってしまう。
どんな上得意でも、いつ自社の商品を必要としなくなるかわからない。他社に流れてしまうかもしれない。人間同士だから関係が悪化することもあり得る。そのときに、一発で売り上げの数割が飛んでしまうというのは、おそろしい。 ちなみに、サラリーマンは勤めている会社に毎月の「売り上げ」の100%もらうのが当たり前だ。この感覚で商売をすると、危ない。 今、僕の会社では、一番の上得意でも、売り上げに占める割合は十数%というところだ。
経営者としては当たり前の心がけなのだろうけれど、実際に起業してみると、資金繰りに追われたりして、目先のお金のことしか考えられなくなる人も珍しくない。 上得意には要注意というポイントはぜひ覚えておいてほしい。
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