「感情」が判断を変えてしまう
(後田):はい。その通りです。つまり、今、加入なさっている米ドル建て終身保険は、今日を起点にすると「加入しない」と即断できる契約内容だと思うんです。それなのに解約をためらわれるのは、今まで払ってきたお金と払い戻しされるお金をドルベースで比べると、10%超マイナスだからですよね?
(五十嵐美香):そうです。4,000ドル近い損になっています。
(五十嵐有司):1ドル100円でも40万円か…。
(後田):痛い! と感じますよね?
(五十嵐美香):はい。
(五十嵐有司):損するのは嫌ですよ。
(後田):私も嫌です。だから、今まで払ってきたお金と払い戻しされるお金を比べるのはやめたほうがいい、と思うんです。
(五十嵐有司):でも、普通、比べるでしょう?
(後田):はい。比べるのが当然だと思います。気にならないほうがおかしい、だからこそ、要注意だと思うんです。感情が判断を変えてしまう可能性が高くなるからです。
「今日以降のお金の増え方」を見れば、「この商品は論外だ」と即断できる。なのに、この商品に「これまで使ったお金」があると、全く同じ商品なのに「今後もお金をつぎ込もう、もっと頑張ろう」となるんですよ? おかしくないでしょうか?
もともとお金を増やしたくて、そのための手段を選ぶのだから「お金が増えにくい商品は論外」と判断するわけです。「今日以降」を起点にした、この判断は「これまで使ったお金」に関係なく行われていて、正しいですよね。
ところが、「これまで使ったお金」と「今戻ってくるお金」を比べると、そんな当たり前の正しい判断が変わってしまう。「お金が増えにくい商品にさらにお金をつぎ込もう」となってしまうんです。気が済まないからでしょう。判断を変えているのは、明らかに「これまで使ったお金が惜しい」「悔しい」という「感情」ですよね? 理性ではないと思います。
(五十嵐有司):言われてみれば、確かにそうですね。
(五十嵐美香):おっしゃることはわかりますけど…。
(後田):残念な気持ちはぬぐい難いですよね?
(五十嵐美香):はい、そうです。
(後田):実は、私はすごくいい時期に相談してもらえた、終身保険の仕組みなどについてお伝えできて本当によかった、と思っているんです。
(五十嵐美香):そうなのですか!?
間違っていたとわかったら、修正は早いほうがいい
(後田):今の保険に加入なさってから9年ですけど、お二人のこれからの人生はあと50年くらい続いてもおかしくないですし、お子さんが社会人になるまでにも、まだ20年近くあります。
ですから「終身保険でお金を増やそうとするのは違うな」と早く気づいてよかったですね! と声を大にして言いたいんです。
既に払ってしまった手数料などは、販売に関わった人の口座に振り込まれていますから、何をやっても戻ってこないです。でも、これから使うお金はどうにでもなります。大事なお金を、これから何年も元本割れが続く契約につぎ込まなくて済むんです。
間違っていたとわかったら、修正は早いほうがいいですよね? そしてお二人はまだ十分若いです。だからよかったなぁと思うんです。
終身保険の「メリット」とは?
(五十嵐有司):あと一点、いいですか? 終身保険って、いいところは何もないんですか?
(後田):いいところもあります。終身保険は死亡保障が一生涯、切れないので、相続対策には便利です。亡くなったときに遺族に残されるのが、銀行預金や投資信託だと相続税がかかりますが、保険金なら一定額まで非課税です。だから、富裕層の間では、終身保険で受け取ったお金を、遺族が相続税の納税資金にするといった使い方があります。
ただ、このような相続対策を検討すべき人は限られますし、現状は、商品の仕組みをよく知らない販売員などが、手数料に魅力を感じて積極的に販売してしまう弊害が大きいと感じます。終身保険は保険料が高額になりやすいので、手数料も大きくなるのですが、それだけ家計の資金繰りを圧迫しますよね。
(五十嵐美香):それは本当にそう思います。
(後田):保険料が高額なのは、「年間保険料×手数料率」という歩合制の報酬体系の下で働いている販売員には好都合なんです。保険料が毎月5,000円の掛け捨ての保険の場合、仮に契約初年度の手数料が年間保険料の70%でも、報酬は4万2,000円です。それが、毎月5万円の終身保険だと手数料率35%でも報酬は21万円になります。どちらを優先的に売りたくなるか、わかりやすいですよね。かつての私のように「お客様が損をしない保険だ」と思っていると、罪悪感もないわけですし。
(五十嵐有司):なるほど、担当の人も悪気はなかったのかもしれません。でも、もう解約します。
後田 亨
オフィスバトン
「保険相談室」代表
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