(※写真はイメージです/PIXTA)

ある男性は、年下の後妻を気遣い「僕が亡くなったら全財産を君に」と口にしていました。ところが、男性は遺言書を残さず亡くなってしまいます。後妻は自宅に住み続けたいと考えますが、先妻の子たちの思いは違っているようで…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

婚活アプリで知り合った年上夫の優しい気づかい

今回の相談者は、60代の専業主婦の石川さんです。夫が亡くなり、相続に悩んでいるということで、筆者のもとを訪れました。

 

石川さんと亡くなった夫は婚活アプリで出会い、結婚して3年ほどです。夫には先妻との間に2人の娘がいます。結婚当初夫は70代で、子どもたちはすでに自分の家庭を築いていました。

 

「私はずっとパート勤めで、ギリギリの生活をしていました。夫はそんな私を気にかけてくれて、結婚話がとんとん拍子で進んだのです。私もやっと安心して暮らせると思ったのですが、そんな矢先に夫の病気がわかって、すぐに旅立ってしまいました…」

 

「夫は〈娘たちは嫁いだ身だ。全財産は君に残すよ〉〈僕がいなくなっても、安心してこの家で暮らせばいい〉といってくれましたが、遺言書の作成をする時間はありませんでした」

 

石川さんの夫の財産は、自宅不動産と預貯金、保険金でおよそ4,000万円と、相続税がかからない範囲に収まっています。

「亡くなったら、実家を返していただけますか?」

葬儀は50代の長女が取り仕切り、法要まで無事に終わりました。その後、石川さんと夫の子どもたちの3人は、遺産分割協議を行いました。

 

「私はいまの家に住み続けたいので、自宅を相続したいといいました。長女さんと二女さんが、それぞれ保険と預金を相続すれば、だいたい法定割合に近くなるようです。それで話がまとまりそうで、ホッとしたのですが、長女さんから条件を出されまして…」

 

長女からいわれたのは「石川さんが亡くなったら、実家を返してもらえますか?」というものでした。

 

石川さんには実子がなく、両親も他界していることから、石川さんの相続人は弟になります。

 

「長女さんと二女さんは、生まれ育った家がなくなるのがいやなのだそうです。でも、2人とも結婚して自分のマンションがありますし、そもそも〈自宅で暮らしなさい〉といっていたのは夫です。なにより、老後生活を支えるために自宅を相続するのに、自分の自由にできないのは困ってしまいます…」

 

石川さんは納得できない様子でした。

子どもたちにも取り分…遺言書がなくてよかった

相談を受けた筆者は、提携先の弁護士とともに、石川さんと夫の子ども2人と、数回に分けて話し合いをすることにしました。

 

当初はかたくなだった石川さんはですが、話し合いを通じ、夫から相続する自宅を、自分亡きあと夫の長女へ遺贈することを決意しました。それに伴い、今回の夫の相続についての遺産分割協議書と一緒に、石川さん亡きあと、長女へ自宅を遺贈する旨を記した公正証書遺言も作成しました。

 

夫の生前なら「妻に全財産を相続させる」という遺言書を作成すれば、石川さんの権利は守れたのですが、そうなれば、夫の子は父親の財産を相続する機会を失うため、恐らく遺留分を請求したと想像されます。余計な争いをすることなく着地させるには、今回のような形で、まずは遺産分割協議をして遺産分与を決め、その後、遺言書を作成するのが妥当だと考えられます。

 

協議の結果、石川さんは希望通り、自宅にそのまま住み続けられることになりました。もし夫が口にした通りの内容で遺言書が作成されていれば、いさかいに発展可能性が高いと思われ、その点を考えれば、いいかたちに収まったといえるでしょう。

 

遺言書が存在しなかったことにより、子どもたちの権利が残ったことを考えれば、石川さんには非情なようですが、バランスのとれた結末になったといえます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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