こんなはずでは…相続税1億2,850万円の衝撃に60代男性が愕然。90代父親が「最も課税されやすい形」で資産を保有していたワケ【相続の専門家が解説】

こんなはずでは…相続税1億2,850万円の衝撃に60代男性が愕然。90代父親が「最も課税されやすい形」で資産を保有していたワケ【相続の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

総資産約4億4,000万円。600坪の土地と多額の現金を保有する父親(90代)を持つFさん(60代)が直面したのは、「1億円を超える相続税」という現実でした。かつて納税のために土地を売却した苦い経験があるなか、残された資産をどう守り、どう引き継ぐのか。鍵となったのは、相続を“生前に完成させる”という発想でした。相続実務士・曽根惠子氏が実例をもとに解説します。

突きつけられた現実 相続税「1億2,850万円」の衝撃

Fさん(60代男性)は、以前から相続について関心を持っていたものの、当時はお父様もまだお元気で、対策の必要性を感じつつも具体的な決断には至らなかったといいます。

 

その後、お父様は90代となり体調も優れなくなり、医師から「もうあまり長くないかもしれない」と告げられました。いよいよ覚悟を決める必要があると感じ、Fさんは相談に来られました。

 

Fさんから伺った家族構成(父・母・Fさん夫婦・子ども2人の6人家族)と保有資産の状況をもとに、まずは何も対策を行わなかった場合を想定し、お父様が亡くなった際の相続税のシミュレーションを実施しました。

【F家の財産分析】
・財産総額:約4億4,760万円
・内訳:不動産55%/金融資産45%

財産の中心は不動産で、自宅の土地は約600坪に及びます。建物自体は老朽化しているため評価はそれほど高くありませんが、土地の評価額が大きく、全体の資産額を押し上げています。

 

さらに、「無借金」を貫いてきたお父様の手元には、土地評価額に匹敵するほどの多額の現金も残されていました。

 

現金が多いこと自体は一見メリットにも思えますが、相続税の計算においては評価減の対象にならず、節税効果はありません。そのため、課税対象としてそのまま計上されてしまいます。

 

シミュレーションの結果、算出された相続税の予想額は「1億2,850万円」。この数字を伝えた瞬間、Fさんは言葉を失いました。
 

「1億……? やはり、そこまでになるのですね」

相続税が高くなる「広い土地」と「使わない現金」の盲点

なぜ、これほどの税額になるのでしょうか。


大きな要因は、「広大な土地」と「活用されていない現金」をそのまま保有している点にあります。

 

F家の土地は、もともと約1,200坪ありましたが、祖父の相続時に納税資金を捻出するため、その半分を売却しています。現在残っているのは約600坪。そのうち約300坪は空き地や雑木林のままで、十分に活用されていない状態でした。

 

さらに、当時は納税のために多めに土地を売却したため、売却代金の一部が現金として手元に残りました。その結果、現在も多額の現金を保有する形となっています。

 

しかし、お父様は「借金をしてまで活用したくない」という考えから現状維持を続けてきました。そのため、評価を下げる効果のある賃貸住宅などの建物はなく、現金も銀行に預けたまま。

 

つまり、不動産も現金も、いずれも評価が下がらない状態——言い換えれば、「最も相続税がかかりやすい形」で資産を保有していたのです。

 

まさに「現状維持」が最大のリスクとなっている、典型的なケースでした。

相続は生前に“完成”させる時代

愕然(がくぜん)とするFさんに対し、私は「新しい相続の形」を提案しました。

 

「Fさん、相続で成功するためには、相続は“亡くなってから”始まるものではありません。生前に“完成”させる時代なんです」

 

多くの方は、相続が発生してから「さて、どうしようか」と動き出します。しかし、それでは手遅れになるケースも少なくありません。亡くなった瞬間に財産の評価は確定し、その後に取れる対策は限られてしまうからです。当然、預金を減らすこともできません。

 

だからこそ重要なのが、生前のうちに相続を設計しておくことです。

 

私がFさんに提案した「相続設計」のステップは、次の通りです。

 

1.相続人と財産を正確に把握する(今回行った試算をさらに詳細に)
2.家族の想いを整理する(誰に何を、どのように残したいのか)
3.資産の使い方・分け方を決める(いつ、どの順番で進めるか)

 

「相続設計とは、単なる節税ではなく、家族の未来を決める設計図です」

 

この言葉に、Fさんは深くうなずきながら、こう語られました。


「ただ税金を減らすだけでなく、父が守ってきたものをどう引き継ぐのか——その道筋を考える必要があるのだとわかりました」

 

攻めの節税 「将来費用の前払い」という戦略

相続設計を進めるなかで、即効性のある具体的な手法として取り入れたのが、「将来費用の前払い(節税経費化)」です。

 

ここで、ひとつ質問です。

 

「相続税の申告費用やコンサルティング費用は、いつ支払うのが正解でしょうか?」

 

多くの方は、「相続が終わった」と答えます。

 

しかし、それでは1円の節税にもなりません。相続税は、亡くなった時点の「純資産」に対して課税されるからです。

 

であれば、将来必ず発生すると分かっている費用は、お父様がご存命のうちに、お父様の資産から支払っておくべきです。

 

具体的には、次のような費用です。

・相続税の申告費用
・専門家へのコンサルティング費用
・土地の境界確定や測量費用(600坪もの土地があれば、測量だけでも数百万円かかることがあります)

 

これらを生前に支出しておくことで、手元の現金を戦略的に減らすことができます。結果として課税対象となる財産が圧縮され、相続税の負担軽減につながります。

 

「設計図を描きながら、同時に財産を圧縮していく」

 

これが相続設計における重要な戦術のひとつです。

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