終わりに
本稿でみてきたことを整理すると、まず相続については、未婚男性は「何もしていない」割合が、すべての性・配偶関係のうち最も高く(約8割)、未婚女性では最も低い(約5割)など、属性によって準備状況に差が見られた。
これには、そもそも低資産層が未婚男性では最も多く(約4割)、未婚女性では最も少ない(約1割)ことが関連していると考えられる。
当シリーズのこれまでのレポートで、未婚女性は、長い老後を見据えて、金銭的備えが最も進んでいることを紹介してきたが、相続についても、すべての性・配偶関係の中で、最も計画的に準備を進めていることが分かった。
「相続」と言えばこれまで、子や孫がいる高齢者が、最も準備が進んでいるというイメージを持っていた人もいるかもしれないが、本稿の分析からは、資産状況や本人の意識との関連が強いと言えるだろう。
次に、判断能力低下後に向けた準備状況としては、男女とも、未婚で「特に準備はしていない」と回答した割合が7~8割に上り、いずれも全体より高かった。
いざという時に身近で助けてくれる家族がいないシングル高齢者の場合は、認知能力が低下した時に備えて、「任意後見制度」などの制度を利用することは、有効な選択肢の一つになると考えられるが、現状では、未婚男性を除いて、利用が低迷していることが分かった。
計画的な未婚女性でさえも、利用が低迷しているということは、まだまだ制度の周知不足、理解不足が背景にあると考えられる。
判断能力低下時の相談相手としては、未婚では男女いずれも、配偶者と子を除く「その他親族」が多く、兄弟姉妹との関係性の深さが改めて推察された。
また、「友人」など、血縁者以外の回答も目立っており、子や孫のいないシングル高齢者にとって、身の回りで頼れる知り合いを増やし、いざという時のネットワークを築いておく重要性を示唆していると言える。
判断能力低下時の金融資産の取り扱いについては、未婚女性の金融資産の保持割合の高さと、運用への希望が目立つ格好となった。既出レポートで報告してきた、「未婚女性は金融に関する知識や行動力が旺盛」という仮説を改めて裏付ける結果となった。
以上のことをまとめると、「終活」のうち、相続に関しては、未婚女性が最も準備が進んでいるが、判断能力低下時の金銭管理については、未婚は男女いずれも準備が遅れていることが分かった。
シングルだと身近に頼れる家族がいないこと、一定割合の高齢者が認知症になることを考えると、シングル高齢者をサポートする任意後見制度等の社会的な仕組みを、もっと機能させていく必要があるだろう。未婚率や長寿化の進行を考えれば、今後もシングル高齢者は増えると予想される。
いざという時に、日常生活に支障を来して本人も周囲も困ることがないように、また、シングルであっても安心してエンディングを迎えられるように、高齢者を支える社会の仕組みについて、もっと周知を図っていくことが必要ではないだろうか。
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