判断能力低下後に向けた備えと希望
判断能力低下時に向けた準備状況
次に、判断能力低下時に向けた準備状況を、性・配偶関係別に分析したものが[図表2]である。まず男性についてみると、「全体」では、「特に準備はしていない」が6割強で、残る4割弱が何らかの準備をしていることが分かった。
具体的な対策のうち、1割を超えたのは「家族に自分の希望を伝えている」(約3割)と「ノート等での意思表示」(約1割)だった。配偶関係別にみると、独居割合が高い「未婚」では「特に準備はしていない」が全体よりも10ポイント以上高かった。
具体的な対策では、「家族に自分の希望を伝えている」が全体より低く、「任意後見制度」は全体より高かった。「配偶者あり」と「離別・死別」では、全体と有意な差は見られなかった。
女性についてみると、「全体」では、「特に準備はしていない」が6割弱で、残る4割強が、何らかの準備をしていることが分かった。具体的な対策のうち、1割を超えたのは「家族に自分の希望を伝えている」(約3割)と「ノート等での意思表示」(約1割)だった。全体的に、男性に比べると、女性の方がやや準備が進んでいるようだ。
配偶関係別にみると、「未婚」では、「特に準備はしていない」が全体よりも高かった。具体的な対策では、「家族に自分の希望を伝えている」が全体より低く、「信託制度」は全体より高かった。
認知症については、75歳を超えると、有病率が男女ともに1割を超えると報告されていることに鑑みれば6、判断能力低下後の財産管理や介護サービスの契約等を、事前に信頼できる相手に依頼しておく「任意後見制度」などは、特にシングル高齢者では、必要になる人は多いと考えられる。
今回の分析によって判明した、未婚男女で準備が進んでいないことや、任意後見制度の利用がわずかであることの背景には、認知能力低下後の高齢者を支える制度に関して、周知不足や理解不足があるのではないだろうか。
6 政府会議「認知症施策推進のための有識者会議」第2回(2019年3月29日)配布資料。
判断能力低下時の相談相手
次に、「将来、判断能力が不十分になったときにどのような相談相手がいますか」(複数回答)との問いに対する回答を性・配偶関係別に比較したものが、[図表3]である。
まず男性についてみると、「全体」では、回答割合がダントツで高いのが「子ども」(約8割)と「配偶者」(約7割)の二つであり、他には「その他親族」(約2割)、「友人」(約1割)などがある。配偶関係別にみると、子や孫がいない「未婚」では、「その他親族」が最大の約7割に上った他、「友人」(約3割)は全体より20ポイント以上高かった。「地域包括支援センター」(約2割)も全体より高かった。
別稿「シングル高齢者の住宅と生活~未婚女性の6割は1日60分以上歩くアクティブ層、未婚男性と離別・死別男女の1割弱は殆ど歩かない不活発層」では、未婚の高齢者は、男女ともに、配偶者や子がいない代わりに、兄弟姉妹との結びつきが強いことを報告した。
そのため、当設問でも未婚の多くが挙げた「その他親族」には、兄弟姉妹が多く含まれると考えられる。「地域包括支援センター」との回答が高い理由は当調査からは明らかではないが、日常生活や介護に関する相談等を通じて、関係性が強いのかもしれない7。いずれにせよ、血縁者以外の回答割合が、全体に比べて高かった。
次に女性についてみると、「全体」で回答割合が最大だったのは「子ども」(約9割)で、男性よりも10ポイント高かった。回答者のうち「配偶者あり」の割合が男性に比べて小さいことなどから、当設問では「配偶者」を選択した割合は約5割にとどまった。
配偶関係別にみると、「未婚」では、「その他親族」が約8割に上り、未婚男性以上に、配偶者や子以外の親族との結びつきの強さを示唆していた。
「友人」(約2割)や「弁護士」(約1割)も全体より高く、未婚男性同様に、血縁者以外の回答割合が、全体よりも高かった。
7 筆者による同調査の分析では、未婚男性では「現在介護を受けている」と回答した人は8.8%で、男性全体(5.2%)と比べて有意差は無かった。