(※写真はイメージです/PIXTA)

住宅ローンを借りる場合、固定金利にするか変動金利にするか、さまざまな見解・考え方があります。しかし、日本が置かれた状況では、固定金利がお勧めであると、元メガバンカーの経済評論家、塚崎公義氏は説きます。具体的な理由を見ていきましょう。

理屈上、固定金利でも変動金利でも「損得はない」はずだが…

銀行から住宅ローンを借りる場合、最初に金利を全部決めてしまう契約(固定金利)と、その時々の金利を使って支払う金利額を計算する契約(変動金利)が選べます。そして、理屈からすれば、どちらが得ということはないはずです。

 

銀行は、将来の短期金利が下がると思えば固定金利を安く設定して貸しますし、上がると思えば固定金利を高く設定して貸すので、銀行の予想が当たればどちらで借りても結果として同じ金利を支払うことになるからです。

 

銀行の予想より将来の短期金利が低ければ、「変動金利で借りればよかった」ということになるでしょうし、高ければ「固定金利で借りればよかった」ということになるのでしょうが、どちらになるかわからないので、借りる側もどちらで借りたら得かは予想できない、ということですね。

 

ちなみに、短期金利は日銀がコントロールしていて、インフレになればインフレ抑制のために金利を引き上げ、ならなければ低いままにする、ということなので、銀行が将来の金利を予想する時は将来のインフレ率を予想することになります。

固定金利で借りる理由…「インフレリスク」「いまが低金利」

筆者は、住宅ローンは固定金利で借りるほうがいいと考えています。ひとつ目の理由は「変動金利で借りると、将来インフレになって短期金利が上がって酷い目に遭う可能性があるから」です。

 

将来インフレにならなければ、低い金利を払い続ければいいので変動金利の方が得ですが、筆者が重視するのは得をすることではなく酷い目に遭わないようにすることですから。

 

2つ目の理由は「いまは低金利なので、固定金利を払い続けても酷い目には遭わないから」です。いまが高金利時代であれば、固定金利で借りると高い金利を払い続けて酷い目に遭うのでしょうが、そうではありませんから。

少子高齢化による労働力不足、大災害等のリスクに要注意

いまは、ロシアのウクライナ侵攻によってインフレになっていますが、これは一時的なできごとだということで日銀は金利をゼロに抑えています。しかし、将来はインフレによって日銀が金利を引き上げる可能性が高い、と筆者は考えています。

 

第1の可能性は、少子高齢化による労働力不足で賃金が上がり、それが売値に転化されることでインフレになることです。いまでさえ労働力不足なのですから、少子化で新しく働き始める人が減っていけば、賃金は上昇していくと考えるのが自然でしょう。

 

第2の可能性は、南海トラフ大地震です。東京、大阪、名古屋が壊滅的な被害を受ければ、復興資材の輸入が著増するでしょう。輸入代金支払いのためのドル買いが殺到すればドルは大幅に値上がりするでしょう。そうなれば、輸入物価すべてが大幅に値上がりするわけです。

 

もちろん、どちらも起きないかもしれませんが、少子高齢化は確実に進行するでしょうし、南海トラフ大地震が起きる確率も決して低くないと思われるので、備えておく価値は十分にあると思います。

労働力不足でも、正社員の給料は上がらない!?

「労働力不足で賃金が上がるなら、金利が上がっても無理なく支払えるだろう」と考えているサラリーマンも多いと思いますが、それは危険な考えかもしれません。非正規労働者の賃金は大幅に上がる一方で、サラリーマンの給料はそれほど上がらないかもしれないからです。

 

パートやアルバイトといった非正規労働者は、賃金を上げないと集まりませんし、いま働いている人が他社に引き抜かれてしまうかもしれません。そこで企業は労働力不足になると非正規労働者の賃金を上げざるを得ないのです。

 

しかし、サラリーマンは給料を上げなくても辞めないだろう、と企業は考えているので、サラリーマンとしては、あまり賃上げを期待するわけにいかない、ということだと思います。

固定金利が高い分は「保険料」だと考えれば…

固定金利の方が変動金利よりも高いので、「インフレが来なければ短期金利が低いままだろう。そうなったら固定金利で借りた分だけ損してしまうから嫌だ」と考える人も多いでしょうが、そういう人は「固定金利と変動金利の差は保険料だ」と考えてみましょう。

 

固定金利での借入は「変動金利の借入と、金利上昇保険の組み合わせだ」と考えるわけですね。火災保険は、火事で家が燃えたら金がもらえます。それと同様に、「短期金利が上がったら高い金利を払わされるが、一方で保険会社から保険金がもらえるので、結局支払うのは固定金利だけでいい」という保険だと考えるのです。

 

「火事にならなかったら保険料が勿体無いから火災保険に加入しない」という人は少ないでしょうから、それと同じように「金利が上がらなかったら保険料が勿体無いから金利上昇保険に加入しない(=変動金利で借りる)」という人も少なくなるはずだ、と筆者は考えているのですが。

 

本稿は以上ですが、資産運用等々は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。

 

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「幻冬舎ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

 

 

塚崎 公義
経済評論家

 

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